アジアリーグはなぜ北海道ワイルズの今季新加入を認めないのか。武田チェアマンに聞いた(前編)

取材・文・画像/アイスプレスジャパン編集部(以下IPJ)

『北海道ワイルズからの加盟申請に対してアジアリーグはどう対応するのか?』
 
この編集部からの質問に対してアジアリーグアイスホッケーの武田芳明(たけだよしあき)チェアマンはリモート取材の画面越しにキッパリとこう答えた。

「リーグの方針ははっきりしておりまして、今シーズンはクレインズがもちろん予定通り試合を行う。ただ給与の遅配を起こしておりますので、今後そういうことが起きないように何らかの防止対策の仕組みを考えていく必要があり、クレインズを指導しているところでございます。それから、新しいチーム、北海道ワイルズからの加入申請については受理するかどうかというのを今検討中でございますが、どちらかというと否定的な見解でございます」(武田チェアマン)。

※武田チェアマン就任を伝える2022年8月30日付けのアジアリーグIHプレスリリース
https://asiaicehockey.com/news/8474

「10万超」と「680」


アジアリーグアイスホッケー公式サイトで6月末までに提示された複数のプレスリリースを読む限りでは、アジアリーグは「12/31までに加盟申請を出さなければならない」という条文を楯に新チームの参戦をかたくなに拒んでいるようにも見える。

                                              ※画像はイメージです

いっぽうで地元釧路の人たちはじめファンからは「なぜこの緊急事態においても新チームの今季からの加盟申請を認めないのか」という声が大きい。
この件は単なる手続き上の問題だけではないと思い、IPJは質問を重ねた。新チームの申請を認めない、その理由はどういった部分にあるのか? と。

この質問に対して武田チェアマンは次のように説明した。

1)クレインズは2019年に10万を超える署名を集めるなど、釧路市民そして地域のスポンサーの支援を受けてできたチーム。それに対して経営者の資質を問うかたちでチーム自体の存在を消そうとしたこと(=除名嘆願)は、これまでのアイスホッケーの歴史を考えると認められるものではない

2)クレインズは現在財政的な不安を抱えているがこれを解消しリーグ戦を行える環境になるのであれば、もう1つのチームを入れることで地域での競合関係の整理がつくのか。その整理がつかないのであれば加入は認められない

3)以上2つについて、アジアリーグ総会での各チームオーナーの総意があること
を理由にあげた。

チェアマンはあくまで個人的見解としてさらに言葉を繋いだ。
「アジアリーグのルールとしては同じ都市を2チームがホームとすることを禁じてはいません。そのいっぽう17万人という釧路の街の規模という点では可能性として経営的に2チームは成り立たないのではないだろうか。新チームが釧路ということではなくて、他のところ、例えば、旭川と釧路とか、札幌と釧路とか、そういう形であれば、よろしかろうとも思います」(チェアマン)

↓クレインズから選手・監督が離脱し新チーム設立へ動くことを伝えるNHK北海道の記事(5/3)
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230503/7000057303.html



釧路アイスホッケー連盟を通じて日本アイスホッケー連盟に提出された新チーム側の「嘆願書」は当初1000名を超えるという報道だったものの最終的に680名分だった。日本製紙クレインズが廃部の危機となったときに集められた存続を嘆願する署名数10万人超という数字からすると3ケタ違う。
とはいえクレインズからほぼ全選手が同時に移籍して釧路に新チームを作る、という「最初の一手」は強烈なインパクトを放っていた。
この嘆願書提出とほぼ同時に新チーム側は、現段階でのアジアリーグ加盟チームであるひがし北海道クレインズの除名をはっきりと求めた。
選手たちも度重なる給与の遅配、そしてそれに対してまったく合理的な説明がなされないというクレインズ経営陣の不義理な態度に苦しみ、新しいチームでの再出発を求めるという“窮余の一策”に出ざるを得なかったことは同情を禁じ得ない。
しかし、その強烈な「手札」を最初に出してしまったことが既存チームのうちすべてではないにしても、クレインズを含め一部のオーナー陣からのより強い反発を招いたことは否めなかった。

なぜ『合議制』? それは20年前の発明だった

現実として、アジアリーグアイスホッケーは2003年の発足時から各チームのオーナー会議によって決定がなされる『合議制』だ。参加各チームの了解があってはじめて物事が決まる仕組みを堅持してきた。その理由を問われればそれはアジアリーグ発足時2003年の経緯にまでさかのぼる…………

(1-後半)につづく

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