HLアニャンが常勝でいられる理由「地味な仕事を…」
決勝弾のカン・ユンソク、日本の師に伝えたグリッツの進化

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵
2026年1月4日(日) アジアリーグアイスホッケー2025‐26シーズン @KOSĒ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 3(2-0、1-2、0-6)8 HLアニャン 観衆:960人
ゴール:【グリッツ】杉本、ラウター、久慈 【アニャン】大津、カン・ミンワン、シン・サンフン、カン・ユンソク、イ・ヒョンスン、キム・サンウクx2、アン・ジンフィ
GK:【グリッツ】古川 【アニャン】イ・ヨンスン
シュート数:【グリッツ】25(11、8、6) 【アニャン】50(15、11、24)
HLアニャンは1月2日から4日まで、コーセー新横浜スケートセンターで横浜グリッツとの3連戦を戦い3連勝。今季このカードを7勝1敗(PSS負け含む)と圧倒して終え、昨季は3勝5敗と負け越した相手にしっかりやり返した。ただ4日の最終戦は3点を先行され、そこから追い上げる苦しい展開。3-3の同点で迎えた第3ピリオド12分16秒、決勝ゴールとなる4点目を奪ったのはFWカン・ユンソクだ。
今季グリッツ戦は7勝1敗……だんだん調子を上げられるアニャンのチーム文化
小さなことを積み重ねたからこそ、回ってきた運だった。第2ピリオドまで2-3とリードを許して終えたアニャンは、第3ピリオドの立ち上がりから積極的にプレッシャーをかけた。耐えきれなくなったグリッツがペナルティを犯し、巡ってきたパワープレーの好機。FWカン・ミンワンが放ったシュートは、バックボードに当たって跳ね返り、ゴール前に詰めたカン・ユンソクの元に戻ってきた。落ち着いて放り込むと、両手を上げてガッツポーズ。うなだれるグリッツの選手たちと、強烈なコントラストを描いた。

アニャンはその後も猛攻を続け、8-3で大勝。このゴールから一気に流れを引き寄せた。カン・ユンソクは「もちろん私も、チームも勝ちたい。その中で基本的なことをちゃんとやっていたから勝てたと思うんです」と胸を張る。コロナ禍による中断を挟んで、再開後の3シーズンを全て制してきたアニャン。その理由がここにあると言いたげだった。
カン・ユンソクがFWイ・ヒョンスン、FWキム・ゴヌ(ゴンウ)と組むラインは、昨季を支えたラインと言ってよかった。ラインナップでこそ4つ目に並ぶが、攻めも守りも自由自在。4つ目のセットまで強力なFWをそろえる層の厚さが、他チームとの差を生んでいた。カン・ユンソクも13ゴール19アシストで32ポイントと、自己最高の成績を残した。
ただ、今季は昨季ほどの破壊力を見せられずにここまできた。相手チームのラインの当て方が変わったこともある。「そろそろ完璧なチームにならないといけない。みんなが小さな仕事、地味な仕事も引き受けながら、完成に近づいていると思います。最後になれば、もっと完璧なチームになってプレーオフを勝てると」。レギュラーシーズンの戦いは、チームの完成度を高める過程。最後にプレーオフを制すれば、王者として名が残る。その戦い方を熟知し、後輩にも伝えているのだ。
岩本裕司監督のホッケーを熟知、あいさつで伝えた「今日も難しい試合でした……」

チームに変化はつきもの。その中ではやりづらさを感じる瞬間ももちろんある。「今年はチームが色々変わって、パワープレーでもセカンドラインに入るようになった。アイスタイムも少し減って、集中が難しいことがあったんです。でも目標は優勝することじゃないですか。そのために考えを変えたんです。もう一回挑戦、チャレンジしようって。私がまず変わって、みんなが変われるようになればいいなって」。
この3連戦、試合を終えるたびにカン・ユンソクはグリッツの岩本裕司監督の元へ出向き、あいさつした。毎日、何を話していたのかと聞くと「今日も難しい試合でした……と言いました」と微笑む。カン・ユンソクは韓国・延世大学を卒業後、2015年夏に栃木日光アイスバックスへテスト入団。2015-16シーズンは45試合に出場し9ゴール13アシストの成績を残した。当時の監督が岩本氏だった。
岩本監督のホッケーを、身をもって知っている。だから「グリッツは裕司さんがきて結構変わりましたよ。内容はいいし、今よりも強くなると思います。システムもフォアチェックしてくるようになって、間隔の詰め方が良くなった」。この3連戦でも、2試合目は1-2のクロスゲーム。そしてこの日は先制を許した。「フォアチェックがアグレッシブで、ちょっとびっくりした。うちの選手はベテランが多いから対応できましたけど」と本音を明かす。
33歳のベテランとなったカン・ユンソク。11年前、大学を出た時にはアジアリーグから声がかからず、独立リーグを経由。ツテをたどって日本でプロ選手のキャリアをスタートさせた。一時は3つあったアジアリーグのチームが現在、韓国ではHLアニャンだけとなり、プロのアイスホッケー選手になる道が細くなっている。かつてのカン・ユンソクのように、日本でプロになろうとする選手が増えている。
「バックスの(GKソン・)ドヒョンも、グリッツの(DFパク・)ジュンソもきっと、寂しい時があると思うんです。でもその瞬間があればこそ、もっと大きな選手になれる。テクニックやシステムを学ぶことよりも、日本にいること自体が大きな経験になります」
新チームのスターズ神戸に加入した韓国人選手たちもそうだ。日本からプロとしての歩みを始め、韓国代表の常連にまでなったカン・ユンソクは、同じ道を歩く後輩が現れるのを待っている。