「本当に恩人なんです」
HLアニャンのFWカン・ユンソクがアイスバックス に感謝する理由

激しく競り合うカン・ユンソク選手(HLアニャン)

1月21日(土) アジアリーグアイスホッケー 会場:KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 1(0−4、0−3、1−2)9 HLアニャン

取材・文・写真/今井豊蔵

1月21日、アジアリーグで首位を走るHLアニャンは新横浜に遠征し、横浜グリッツと戦った。
すでにプレーオフ進出を決めているアニャンは、グリッツのミスにも乗じて着々と得点を重ねた。その中でハットトリックを記録したのがFWカン・ユンソクだ。第1ピリオド11分、グリッツのパスをカットするとそのままシュートしゴールに叩き込んだ。第1ピリオド15分、さらに第2ピリオド開始早々の33秒にも得点しこの日3得点。
かつて、日光アイスバックスでプロデビューしたフォワード(FW)は、ようやく再開されたアジアリーグで何を感じているのだろうか。インタビューを申し込むと、流暢な日本語を交えて答えてくれた。

3季ぶりのアジアリーグでハットトリック「私のプレーは、前と全然変わりました」

カン・ユンソクは韓国・延世大学を卒業後、2015年夏に日光アイスバックスへテスト入団。2015-16シーズンは45試合に出場し9ゴール13アシストの成績を残した。翌年は兵役問題もあり、韓国へ戻って軍隊のチーム「サンム」でプレー。兵役を終えた2018年からはアニャンハルラ(現HLアニャン)に所属している。ただ新型コロナウイルス感染拡大の影響でアジアリーグ が休止されていたため、日本のチームと試合をするのは3シーズンぶりだ。以前との違いを問うと、すぐに答えが返ってきた。

「まず私のプレーが全然変わったと思います。前は外でプレーするという感じだったのが、今は中へ、中へと。パックがある時も、ない時も、中にどんどん入っていくスタイルになりました」

今季はシーズン途中から、キム・ギソン、キム・サンウクと組むアニャンの看板ラインへ抜擢された。体を張って、彼らを生かそうとするプレーが目につく。1試合3得点はアイスバックス時代にもあった。2015年11月21日に日光で行われたサハリン戦、アイスバックスは8-7で打ち勝った。この試合で2得点した上に、同点のまま迎えたPS戦では勝利を決める1点を決めた。「だから、ちゃんとしたハットトリックは初めてですね」と笑う。献身プレーを続けてきたことへのご褒美だろう。

プレースタイルの変化は、なぜ起きたのだろうか。

「正直に言いますね。バックスの時も、ハルラに移籍した時も、チームより自分のためにプレーしていました。でも今は、チームがチャンピオンになるのが一番大切。例えばパワープレーでも、ゴール前に立ってスクリーンを頑張る。昔はパックをチップすることばかり考えていました」

アイスバックスでプロのキャリアをスタートしたカン・ユンソク選手(中央)。日光での「学び」は大きかったという

ルーキーは経験を重ね、若返りを急ぐアニャンでは後輩の方が多くなった。
「僕は韓国の歳で32歳になります。引退も考えますよ。ずっと現役でやりたいけど、僕だけで決められることではないから。だからその前に、チャンピオンになりたいんです」。コロナ禍で吹き飛んだ貴重な2シーズンを取り戻すかのようにプレーする。

アイスバックスで学んだ「アイスホッケー」3人の恩人に今でも感謝

遅咲きの選手だ。昨季は韓国代表として初めて世界選手権に出場し、ディビジョン1Aで3アシストを記録した。全てのスタートとなったのがアイスバックスへの入団だった。もしアイスバックスに入団していなければ、ホッケーをやめていたはずだという。
「バックスがなければ、今の僕はいません。僕にとっては岩本裕司(現日本代表コーチ)さん、斉藤毅(現クレインズ監督)さん、哲也(アイスバックス)さんが本当に恩人なんです。毎日……は言い過ぎですけど、今もよく思い出します」とまでいう。
当時、どんなことを教わったというのだろうか。

「(岩本)裕司さんは、僕を信じて、僕が自信を持ってプレーできるようにしてくれた。『ユンソクは1日目はいいプレーをできるけど、2日目はできない。それが重要なんだよ』とよく言われました。今はその言葉通りの選手に変われたかな。毅さんにはよく『パッション』と言われましたね。僕は弱いから『ユンソク、頑張ろう、頑張ろう。パッションだよ』といつも言ってくれていました」

韓国からたった一人でやってきたカン・ユンソクには、その言葉の1つひとつが重く響いた。
「その時僕はルーキーでした。まだホッケーが何なのか、よくわかっていなかった。だからいつもとにかく『頑張りましょう。頑張りましょう』と言っていた気がしますね」と明るく振り返る。そして、海外に出て戦うことは、リンクの中でも外でも大きな壁にぶつかったのだという。
「ホッケーだけではなく、人生で本当に大事な経験でした。寂しい時もあったし、いろいろ、本当にいろいろなことがありました。でもその時があるから、今の僕があると思います。精神的に強くなったのが一番かもしれません」。

日光へ行くのは楽しみ、と語るカン・ユンソク選手

日本のファンに伝えたいことはありますか、と聞くと、正確に伝えたいと思ったのだろうか。言葉が韓国語に変わった。
「今も待っていてくれるファンがいて、応援してくれるファンがいて……。日光へ行く時は本当に楽しみなんです。僕の人生で本当に感謝している期間ですし、ずっと続けていける関係だといいなと思っています」。

2月4日からは、今季2度目となる日光遠征がある。さらに、アニャンとアイスバックスはプレーオフで対戦する可能性もある。いいプレーを見せることこそが恩返し。カン・ユンソクは今日も一生懸命に走り、体を張り続ける。

Release: