ファンと選手がゴミ拾い通じて交流も
取材・文/沢田聡子 写真/沢田聡子・アイスプレスジャパン編集部
10月9日、横浜GRITS はKOSÉ 新横浜スケートセンターにH.C.栃木日光アイスバックスを迎え、アジアリーグアイスホッケージャパンカップ2021の第5戦を戦った。先制するも4-12で敗れ、リーグ初勝利はならなかったが、試合後にも大切なイベントが控えていた。
横浜GRITSは、アジアリーグに参加した昨季から「LEADS TO THE OCEAN 海につづくプロジェクト(以下LTO)」に賛同してゴミ拾い活動を行っている。ホームゲームが終わった後に、ファンと選手が協力してアリーナの周りに落ちているゴミを拾うのだ。今季も「LTO 〜ジャパンカップ2021・2年目の挑戦〜」と銘打ち、ゴミ拾い活動を継続している。
横浜GRITS が賛同するLTOは、日本財団が主導する「海と日本プロジェクト」とゴミ拾い団体「NPO法人 海さくら」が主催し、プロスポーツ計17チームが参加するプロジェクトだ。
海の環境問題にスポーツと清掃活動を軸にしたアプローチで取り組んでおり、街のゴミが海まで流れていくことに着目し、競技場周辺の清掃によって海もきれいにすることを目指している。
活動を開始したのは2015年7月で、最初に参加したスポーツチームはサッカー・Jリーグの湘南ベルマーレだった。その後バスケットボール、野球、ラグビーのチームが加わっており、横浜GRITSはアイスホッケーのチームとしては初めての参加となる。
横浜を拠点とするGRITSは、「横浜の海、再生大作戦!!」というスローガンの下、今季も16回のゴミ拾いを予定している。1回の参加につき1つもらえるスタンプを11個以上集めれば「ゴミ拾いマスター」に認定され、表彰式でプレゼントがもらえる特典付きだ。
10月9日のゴミ拾い活動にも多くのファンが参加し、子どもたちの元気な声が響いていた。横浜市に隣接する大和市在住の男性は、昨季の試合中にアナウンスでこの活動を知ったといい「すごく地元感あります、GRITSって」と語った。
「横浜・神奈川を前面に出した感じがありますね」
横浜をホームとしていた日本リーグの名門・コクド時代からアイスホッケーを観に来ていたという男性の口調には、再び地元にアイスホッケーのチームができたことへの喜びがにじんでいた。
「コクドがなくなってから新横浜での試合が減っちゃったので、ホッケーを現場に観に行くのも減っちゃったんです。しばらくブランクがあったんですけれども、新しく(新横浜を拠点とするチームが)出来たので、また“カムバック組”というか」
地元のファンにとってこのゴミ拾い活動は、GRITSが地域密着型のチームであることを体感できる機会になっているようだ。
また、子どもがKOSÉ 新横浜スケートセンターを拠点とするクラブでアイスホッケーをプレーしているという女性も、昨季からゴミ拾いに参加しているという。
「(ゴミ拾いを)自らやるっていうのはハードルが高いんですけれども、こういうふうにすべて用意していただいて、上手く乗せていただけるので。子どもも親も、(試合を)観に来たら(ゴミ拾いを)やりましょう、っていう流れで考えています。参加できるのはすごくいいチャンスで、楽しくやっています」
「ゴミ拾いの活動も一緒にやって下さったりして、すごく選手が近くて。子どもからしてもいいロールモデルというか、身近なお兄さん的な感じで、応援しがいがありますね」
「スポーツの力を通じて活動の輪が広がると嬉しい」濱島選手
この日ゴミ拾い活動に参加した横浜GRITSのFW濱島尚人は「試合後、しかも敗戦後にもかかわらず、ファンの方々が選手と一緒に温かくゴミ拾いをしてくださったのには感動しました」とコメントしている。
「この活動は地球の環境にかかわる大事な取り組みなので、スポーツの力を通じてたくさんの人に広がれば嬉しいです」(濱島)
既に子どもたちがリンクの周りのゴミを拾っていたこともあり、ゴミの少なさに驚いたという。
「子どもたちが輝いた顔でゴミをたくさん拾って『こんなにゴミ拾ったよ!!』『カードください(選手自身から、LTO活動の概要が入った選手カードがもらえる特典がある)』と積極的にコミュニケーションをとってくれて、試合の疲れもとれました」 (濱島)
選手が一人参加する度、その周囲にはゴミ拾い用の袋とトングを持ったままカードをねだる子どもの輪ができており、アリーナ前の歩道は和やかな雰囲気に包まれていた。最後にファンと選手は仲良く写真におさまり、活動は終了となった。
なぜ、横浜グリッツは『ゴミ拾い』に取り組むのか?
横浜GRITSがLTOに取り組むようになったきっかけは、副GMを務める森井宏誠氏が、2009年に友人に誘われてゴミ拾い団体「NPO法人 海さくら」主催のミュージックフェスティバルに参加していたことだ。江ノ島には昔タツノオトシゴがいたが、海が汚れたためいなくなってしまったという。「海さくら」は「タツノオトシゴが戻ってくるくらいに江ノ島の海をきれいにしたい」という目標を持って活動しており、LTOのシンボルマークにもタツノオトシゴが組み込まれている。
2020年、横浜GRITSが正式にアジアリーグに参入した際、「海さくら」と「日本財団」が2015年からスタートしていたLTOを知った森井氏は、早速「海さくら」に話を聞きにいった。そこで森井氏は、海の素晴らしさや人間の生活と海のつながり、海の汚染状況などをおしつけがましくない形で伝える活動を目指していることに感銘を受け、ファンだけではなく近隣住民も参加できる清掃活動であるLTOへの参加を決める。
「横浜GRITSのホームリンクがあるKOSÉ新横浜スケートセンターの近くには鶴見川が流れており、たどっていくと東京・町田の多摩丘陵の奥にまでつながっています。水源にはきれいな水が湧き出ているのに、鶴見河口に来る頃には汚れていて、そのまま海に流れ着くということも知りました。近くの川から流れるゴミを止めるには街のゴミを拾うことが大切であることから、2020年、横浜GRITSは取り組みを開始しました」(森井氏)
昨季は声をかけられて活動に参加していたファンも、今季は自ら参加してくれているといい「大変嬉しい限りで、感謝しております」と森井氏は語る。
「我々としては、まず排水溝からゴミを流さない、そしてその行く先である海がきれいになることを目指し、ホームの試合で皆様とご一緒に取り組んでいきたいと思っています。そしてその内容を『海さくら』さんへご報告することで、より良いものに展開できたらと考えております」(森井氏)
選手とファンが一緒に取り組む、横浜の海をきれいにするためのゴミ拾い活動。横浜GRITSは、リンクの外でも魅力を発揮するチームを目指し活動を続けている。