GK大塚一佐が奮闘。アイスバックスを連敗危機から救う
取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部
アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
9月29日(日) レギュラーシーズン@神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 2(2-2、0-2、0-4)8 栃木日光アイスバックス
ゴール:【グリッツ】石井、泉 【アイスバックス】古橋x3、相馬、寺尾、宮田、磯谷、清水
GK:【グリッツ】古川 【バックス】大塚
シュート数:【グリッツ】32(11、10、11) 【アイスバックス】38(11、15、12)
開始直後に2失点。早くもシーズンを左右しかねない正念場に……
前日9/28の試合では横浜グリッツに2-6で敗れた栃木日光アイスバックス。
得点差のみならず、内容的にもグリッツの良さばかりが見えた“完敗”だっただけに、試合終了後にはSNS等でもファンからのかなり厳しい声が飛び交っていた。まだシーズンはじまったばかりの9月とはいえ、ここまで延長勝ち2つに留まっている状況では、プレーオフ進出に向けてファンから心配の声があがるのはいたしかたなかった。
迎えたこの日も試合開始直後は完全にグリッツのペース。アイスバックスはディフェンスの寄せが甘く、ゴール前でパスを綺麗につながれてグリッツ石井秀人、泉翔馬のフィニッシュで立て続けに失点を喫する。第1ピリオド2分18秒であっというまに0-2とされアイスバックスはシーズン序盤のこの試合で早くも正念場に立たされた。
タイムアウトで藤澤監督が伝えた言葉
ここでアイスバックス藤澤悌史監督は1試合1度しか使えないタイムアウトのカードを早くも切った。「『ここまで流れが悪いので基本的なことをしっかりやろう』、と。まだ時間も早いし、これから全然チャンスも来るので1つ1つのプレーをきっちりやっていこうよ、という話をしました」(藤澤監督)
そしてアイスバックス最後の砦を任されていた大塚一佐にも、このタイムアウトは貴重な時間となった。ここで静かに心を整えたことで大塚は、まだまだここからだ、とメンタルのスイッチを切り替えられた。「確かに2点を失って雰囲気はあまり良くありませんでした。でも、(完全に相手のペースで決められた)ああいった失点だからこそ、何かこう、『割り切っていこう』と。タイムアウトの次のシフトではすぐに気持ちを切り替えてやれていたので」
2点を決められたのはもう過去のこと。大塚は改めてグリッツのシュートを防ぐ、その1点に集中した。シュート1本1本を止めるたびに大塚の集中力は増し、アイスバックスは好守を見せるたびにリズムを取り戻していく。
するとパワープレーで古橋真来がゴール前で合わせて追撃の1点。さらには再び得たパワープレーのチャンスで完璧な形を作り、最後は相馬秀斗がワンタイマーで決めて2-2の同点に。アイスバックは第1ピリオドが終わる前に不穏な空気を振り払うことに成功した。
ディフェンスの佐藤大翔は「今日の2失点はキーパーにとっても難しいシチュエーションで、危険な位置からディフェンスがパックを出せなかったのが理由。そこで、相手側にフリーの選手を作らないようにマンツーマンで対応することで、しっかり相手を見ることができたと思う」と巻き返しに転じたその時間帯を振り返った。「昨日(9/28の試合)はだらしない試合というか、情けない試合だったので、今日の朝にもミーティングをして切り替えてやっていこうという意思統一はしていた。ただ、多分みんなも何かを変えようという意識が前に出てしまい今日もスタートに失敗したことは確か。ただ、その空回りはタイムアウトで落ち着くことで修正することができたと思います」(佐藤)
終わってみれば8得点の快勝。続くHLアニャン戦で上位浮上を狙う
落ち着きさえ取り戻せば、得点力の高い選手が揃っているだけにアイスバックスがペースをつかむのは時間の問題だった。先に相手にパワープレーを許して迎えたピンチで、カウンターを狙っていた寺尾勇利が相手DFのパスの乱れを突いてパックを奪うと、圧巻の個人技でショートハンドゴールを決めて3-2とついに逆転。これがのろしとなり、最終的には8点を積み上げる猛攻でグリッツの勢いを完全に止めた。
バックスの8点目は古橋真来が自陣からタイミング良くパスに合わせて飛び出し、ノーマークの状況を作り出した。そして古橋はGKをも軽やかに交わしてゴールを決め、ハットトリックを達成。「パスを出した寺尾選手が良く自分のことを見ていてくれた。丁度そのタイミングで抜け出すことが出来ました。自分自身、昨日は得点に絡むことができなかったので……。それに対して自分自身にプレッシャーをかけて『自分がどうにかチームを勝たせたい』という気持ちで臨んだ結果がこの3ゴールだったと思う」(古橋)。
GK大塚はタイムアウト以降は非常に高いレベルのゴールテンディングを維持し、グリッツに一切の追加点を許さなかった。「自分というよりはプレイヤーのみなさんがすぐに点を奪い返してくれたし、しっかり守ってくれたので、それが失点ゼロに繋がったと思います」と大塚はまずチームメイトを称えたが「ファンも注目していたと思うし、今日は勝たなければいけない試合だった。そこで勝ち切れたのはよかったです」。プレッシャーから解放されたせいもあってか、インタビューの最後にはとびきりの笑顔を見せてくれた。
敗戦も勝利も糧に。経験を着実に積み上げ、大塚一佐は前進する
霧降での逆転負けも、そしてこの試合の逆転勝利の経験も20歳の若きGK大塚にとっては大きな財産だ。若い選手にとって、冷静に敗因を見つめ直すことは簡単な作業ではない。しかしそこを乗り超えて積み上げたものが、自分を支える財産となっていく。
「前回の負けもすごく勉強でしたし、毎週勉強になっているので。出場機会も今は貰えているので、こういうときにこそ勝ちを手にするのはもちろん……そうですね、そうやって成長していけたらと思います」
藤澤監督は前回日光霧降でのレッドイーグルス戦で逆転負けを喫した試合後に「GK交代が頭をよぎったか?」という記者の質問に対して「彼のプレーが悪かったわけではない。色々な考え方があるとは思うが、彼を交代させるという選択肢は私にはまったく無かった」と“即答”している。
その指揮官からの信頼に大塚は全身全霊で応えるつもりだ。「去年は1勝しかできていなくて、今年は本当にやらなければいけない。もう2年目で、高卒だからという言い訳なども通用しないので。まだまだですけど1試合1試合を大切に頑張りたいと思います」(大塚)。
決して焦らず、自分らしく。大塚はこの逆転勝利を通じて、一歩一歩着実に前に進み続ける姿をファンに披露できたことは間違いない。