初ゲーム当日が誕生日……新加入・スターズ神戸、青山大基にシン・ドンヒョンが贈った祝砲
試合への飢えを抱えた集団が記した第一歩

スターズ神戸にとっての開幕ゲーム。スターズ神戸初となるゴールはシン・ドンヒョン(右)が豪快に決めた

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部

アジアリーグアイスホッケー2025-26
9月20日(土) @KOSÉ新横浜スケートセンター 1回戦 観衆:931人
横浜グリッツ 6(1-0、2-0、3-1)1 スターズ神戸
ゴール:【グリッツ】種市x2、池田、杉本、齊藤、岩本【スターズ】シン・ドンヒョン
GK:【グリッツ】古川 【スターズ】石田
シュート数:【グリッツ】37(10、14、13) 【スターズ】17(4、4、9) 


9月21日(日) @KOSÉ新横浜スケートセンター 2回戦 観衆:729人
横浜グリッツ 3(0-0、2-0、0-2、OT0-0、PS1-0)2 スターズ神戸
ゴール:【グリッツ】杉本x2、T・ロックウェル(GWS)【スターズ】矢野(竜)x2
GK:【グリッツ】磯部 【スターズ】石田
シュート数:【グリッツ】53(13、21、14、4、1) 【スターズ】14(2、4、6、2、0) 

アジアリーグデビューは黒星も…シン・ドンヒョンが初ゴール!

 西日本初のプロアイスホッケークラブ、スターズ神戸がアジアリーグに参入して初の公式戦を迎えた。9月20日の新横浜、相手は誕生して6年目を迎える横浜グリッツだ。第一歩は、1−6という悔しい敗戦。その中で選手たちは何を感じたのか。

 0−4の劣勢で迎えた第2ピリオド、スターズは敵陣でのフェイスオフで、FWエア懐生がパックを引いた。後方でパックを受けたFWシン・ドンヒョンはやや右にずれながらシュート。浮き上がるような軌道を描いてGKの左肩を抜いた。記念すべきチーム初得点が生まれた瞬間だった。

「チームができて最初の試合でゴールを入れることができて、とても光栄です。ラインメートが助けてくれたおかげです。みんなにありがとうと言いたいです」

 金髪でちょっといかつい風貌のシン・ドンヒョンは、こう謙虚な言葉を並べる。同じシフトで氷に上がっていた選手の中には、この日が26歳の誕生日だった主将のDF青山大基もいた。「バースデーゴール、したかったです」と話していた青山には何よりのお祝いだ。

 日本、韓国、中国と多様なバックボーンを持つ選手が集まったスターズで、チームをまとめる主将・青山の苦労は容易に想像がつく。シン・ドンヒョンも「主将はチームでも大切な役割。どう見ても重要な人なので、きょう誕生日記念に初勝利を持ち帰りたかったんですが……。そこはとても残念。主将はいつも大変だとチームメートはみんな知っています。お疲れ様ですと伝えたいです」と感謝が口をつく。

スターズには韓国から8人もの選手が加わっている。うち6人はこの春、大学を卒業したばかりの選手たちだ。シン・ドンヒョンは「神戸に新しいアジアリーグのチームができると聞いて、2月のトライアウトに参加したんです。そこでよく見ていただけたようで、契約することになりました。大学を卒業した後もっとホッケーを続けたかったので、まずは挑戦してから考えてみようと」。プレーの場があれば、国境をまたぐのも気にならなかった。

 韓国からのアジアリーグ参加チームは、2018年の平昌五輪前には3つあったものの、廃部が相次ぎ現在はHLアニャンだけとなった。大学を卒業した選手が、ホッケーを続ける道はきわめて細いのが現状だ。彼らの挑戦には、後進への道を開くという意味もある。

「自分がうまくやりたいというより…」韓国人ルーキーが背負う競技の未来

シン・ドンヒョンは韓国・延世大を卒業後すぐにアジアリーグの門をたたいた。スターズ神戸での成長を誓う

「とにかく、大学を出たらホッケーをやめて、引退してしまう選手がとても多いんです。運良くここに来ることができたので、自分がうまくやりたいというよりも、日本のチームで韓国人の評価が上がるようなプレーをしたいと思っています」

 シン・ドンヒョンの兄、シン・サンユンもプロ選手への夢を諦めた選手の1人だ。強豪の高麗大学を卒業したものの、世は新型コロナ禍。ハイワン入りしたが試合の機会がほとんどないままに、チームは解散してしまった。現在は子供たちの指導をしている。シン・ドンヒョンにも様々なアドバイスをくれるという。

「兄として、プロへ進んだ選手として、たくさんの言葉をもらいました。何よりも『引退したら終わりなんだ。だから後悔する前に、今アジアリーグでプレーできる時間は気を使わず思い切りやれ、楽しめ』というのが一番印象的です」

 またシン・ドンヒョンには、新チームのキーマンとなれる資質がある。中学校の頃に中国に住み、インターナショナルスクールに通ったことがあるのだ。英語も堪能で、日韓中の選手が入り乱れるコミュニケーションでハブとなれる可能性があるのだ。

「とは言っても新人選手じゃないですか。初のシーズンでプロとして、チームの助けになる、チームが必要とする選手になりたい。僕たちのチームは皆、今日が新しいスタートだと言っています。まだうまく適応できなかったり、拙いプレーが出ます。明日の試合は今日の試合をフィードバックして、足りなかった部分を修正して、もっと向上した競技力を見せたい」

 そう言うのも、学生ホッケーとの差をはっきり感じたからだ。

「思ったよりも大きかったです。チェックも激烈で、プレッシャーもきつい。パワーの面で、大学のホッケーをそのままやっていちゃダメだと思いました」

アイスタイムへの飢えを抱えた集団……翌日は初の勝ち点奪取

9/20(土)スターズ神戸のアジアリーグ初ゲーム。GK石田を中心に17人の選手たちは気持ちを1つにし試合に臨んだ。

 その中で「1点取れたのはデカいですよ。これを自信につなげてやっていければ」と話していたのは青山だ。「勝負なので負けて悔しいとは思いますけど、ホッケーをできる楽しみを感じられた」というのは本心だろう。青山は明大から強豪レッドイーグルスに加入して3年間プレーしたものの、定位置をつかむだけの評価をなかなか得られなかった。アイスタイムは減り続け、昨季はベンチで出番なく終える試合も多かった。

 スターズにはそんな「リベンジ組」も集まっている。3連覇しているHLアニャンを自ら退団して加わったDFイ・ミンジェは「とにかく試合に出たかったので。それだけです」と移籍の理由を口にする。アニャンでは7番目のDFが定位置。それがここでは青山とトップラインでの出場だ。アイスタイムの急増も「疲れはしますけど、楽しさしかない」と頼もしい。

 ただ、選手層の薄さは否めない。この試合もようやく3セット揃えた形だった。当面は自陣で耐える時間が長くなると予想される。青山は「どうしてもDゾーンが長くなります。その中でピンチにシュートブロックに行く姿も何本か見受けられて。犠牲心を持ってやってくれているのがよくわかる。そういうところもホッケーの魅力だと思うんですよ」と、チームが一つになって戦う姿も、関西のファンにアピールしたいと話す。

関西テレビ局からの質問に答える青山キャプテン。2回戦では0-2から6人攻撃の2ゴールで追いつき”歴史的な勝点1”を得た(写真:編集部)

 翌日の第2戦も耐える試合となった。ただ第3ピリオド終盤、GKを上げての6人攻撃を成功させ、FW矢野竜一朗が立て続けに2ゴールを決めて2−2の同点に。延長戦、さらにサドンデスまで突入したPS戦の末2−3で惜敗したものの、早くも勝ち点1をもぎ取った。

 スターズには、これまでアイスホッケーとは縁遠かった西日本のファン増加という期待もかかる。「僕たちのプレーでメッセージを送って、アイスホッケー界を盛り上げていけたら」と青山。ホッケーを続けたい、もっと試合に出たいという飢えを抱えた集団が白星を挙げるのは、そう遠い未来ではないのかもしれない。

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