敵地で息を吹き返したレッドイーグルス北海道
GK成澤優太がマスクに込めた願い「それぞれ持ち味を出して…」
取材・文:今井豊蔵 写真:HL Anyang、今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部
アジアリーグアイスホッケー2023-24シーズン
4月4日(木) プレーオフファイナル 第3戦@韓国・アニャンアイスアリーナ
HLアニャン 0(0-0、0-2、0-3)5 レッドイーグルス北海道
ゴール:【アニャン】なし 【レッドイーグルス 】相木、今、高橋、高木、中屋敷
GK:【アニャン】ダルトン 【レッドイーグルス 】成澤
シュート数:【アニャン】33 【レッドイーグルス】22
連敗で後がないレッドイーグルスが敵地で完封勝利
「我々はあと1勝が残った状態ですが、レッドイーグルスはもう後がない。こういう時はより強い力が出るものなんです。我々もより準備して臨まないと勝てない」
第2戦が終わったあと、連勝したアニャンのパク・ジンギュ主将が残した言葉だ。
レッドイーグルスにとっては、本拠地での連敗スタートを喫してから中3日。韓国で再開された戦いを、今度は完勝してみせた。シュート数ではアニャンが圧倒したものの、ロースコアで進めるというゲームプランを忠実に遂行した。特に第2ピリオドは、のべ8分間のPKを無失点で終えた。
その中心に立ったのが、GK成澤優太だ。
今季のレッドイーグルスはGKの起用方法を大きく変えた。昨年は成澤が主戦として33試合に出場したが、小野田拓人との併用が基本となった。
連戦の初戦が成澤、2戦目が小野田というパターンでレギュラーシーズンは進み、両者ともに好成績を残した。成澤が18試合に出場し、セーブ率92.11%で最優秀セーブ率のタイトルを獲得。ただ小野田も13試合に出場し、規定の出場時間には届かなかったものの94.22%という驚異的な数字を残した。
どんな思いでシーズンを戦ってきたのか。
成澤に聞くと「1試合にかける思いというか、結果を残さないとダメだという気持ちはより強くなりましたよ」と言う。「昨年までは2試合目も使ってもらえていましたからね。拓人に負けないように、切磋琢磨してやっていけているのではないかと思います」と併用がもたらす効果を口にする。
成澤にとって、小野田とのポジション争いは今回が初めてではない。
2015-16シーズン、中大から入部したばかりの小野田は30試合で93.55%のセーブ率を残し、1つしかないポジションを奪った。翌年も小野田が41試合の出場に対し、成澤は9試合出場にとどまった。ただその後は、助っ人ドリュー・マッキンタイアの加入があったりしたものの、基本的に成澤が主戦を奪い返し現在に至る。成澤は今季の小野田をどう見ているのか。
「練習から見ていても、実力を取り戻しているというか……。ルーキーシーズンの自信を取り戻しているのかなと思います」
GK併用が大成功のレッドイーグルス 、成澤が指揮官に寄せる信頼「熱いものを感じるんです」
試合に出られるGKは1人しかいない。しかも「完全な併用は不可能。誰かが主戦になる」という考え方が根強い。今季のレッドイーグルスのように、併用制を敷いて両者ともに成績を向上させるケースは稀だと言える。
この体制を作ったのは、GK出身の荻野順二監督だ。指揮官は現役時代、サブとして戦ったシーズンの方が多かった。若き日にはダスティ芋生、その後は春名真仁が大きな壁として立ちはだかった。若き日の成澤とポジションを争ったこともある。自身の経験も元に、この起用法を決めたのだという。
「試合に出ないと、選手は絶対に成長しないんですよ。小野田も練習からずっと頑張っていましたし、チャンスを与えないと」
アジアリーグでは専任のGKコーチを置くケースはほとんどない。GK出身の指導者さえ珍しいのが現実だ。成澤は荻野監督になっての変化は、技術のチェックが行き届くほかに、精神的な面も大きいという。「(荻野監督とは)一緒にプレーもしていましたけど、昔から本当によくしてもらって。僕がメインで出ているときにも支えてもらって。コーチになっても変わらないんです。絆というか、熱いものを感じるんです。変わらず信頼して戦っている」。
多くのGKとポジションを争ってきた経験も宝だ。
「春名さんは日本代表でもずっとプレーを見させてもらった。マッキンタイアはあの安定感ですよね。みんな、自分に足りないものを持っている絶対的なGKでした」。
その上で、自らにできることも明確になっている。「何かと言われれば……バタバタせずに止めることですかね。リバウンドコントロールを大事にして。体を投げ出すようなビッグセーブができればなと思うこともありますけどね」。
ヘルメットの後側に描かれた「同期との絆」
今季はもう一つの、強い絆も感じながら戦っている。新調した成澤のGKマスクには、珍しいことにチームメートの似顔絵がペイントされている。同じ1987年生まれのFW久慈修平、DF山下敬史と成澤、3つの笑顔が輝く。「あんまりないかもしれませんね」と笑いながら、成澤はその意味を教えてくれた。
「同期はみんな仲が良いんですが、今も現役でやっている選手となるともう片手で数えられるくらい。それがFW、DF、GKとポジションが散らばっているのも面白い。それぞれの持ち味を出して、優勝するのが一番の目標なので」
レッドイーグルスがアジアの頂点に立てば、前身の王子イーグルスが2011−12シーズンに制して以来12季ぶり。
当時、日光アイスバックスとのプレーオフ・ファイナル第4戦はオーバータイムに突入する熱戦となり、イーグルスが久慈の決勝ゴールで制した。
ゴールを守り続けたのは春名。成澤はベンチから見守っていた。今度は自身の力で、優勝をつかみ取れるだろうか。