「ゴールに向かう姿勢は変わらず磨き続けてきた」
レッドイーグルスに新加入・磯谷奏汰が見据えるチャンピオンへの道程

磯谷選手は8月に行われた「2025 Canadian Hockey Camp」ではゲストコーチとして子どもたちの指導も行っていた

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真提供:レッドイーグルス北海道/OVERBAY

取材協力/OVERBAY

 アジアリーグアイスホッケー2025‐26が9/6に開幕した。昨季までの日本4チーム(レッドイーグルス北海道、東北フリーブレイズ、栃木日光アイスバックス、横浜グリッツ)に加えてスターズ神戸が新規参入。そして3連覇(コロナ禍でジャパンカップとなった年度を除けば4連覇)を達成しているHLアニャンを加えて6チームで今季はアジアチャンピオンの座を争う。来年3月15日までの日程でレギュラーシーズンが行われ、プレーオフ進出は6チーム中上位4チーム。より熾烈なチャンピオンフラッグ争奪戦となることは確実だ。
 そんな新シーズン。チャンピオンの座を奪還するためにレッドイーグルス北海道が打った1手には驚かされた。3年連続してプレーオフファイナルに進出しながらもHLアニャンの牙城を崩せなかったレッドイーグルスだが、今オフでの磯谷奏汰選手の獲得は、「HLアニャンから必ずや王座をレッドイーグルスが奪還してみせる」という強烈な意思の表れにも思える。
 レッドイーグルス北海道の今季開幕ゲームは9/13(土)、アウエー・日光霧降でのvs栃木日光アイスバックス戦だ。昨季も数々の激闘を演じた両チームの対決であり、磯谷奏汰選手にとっては古巣といきなりの対戦。2022‐23シーズンにひがし北海道クレインズでアジアリーグデビューを果たした磯谷奏汰選手は日本での4シーズン目となる。新しく深紅のユニフォームを身にまとって迎えるアジアリーグでの戦いにどんな思いで臨むのか? 開幕戦を前にじっくりと話をうかがった。

世界選手権後に取った休みは1週間。「自分の中ではオフシーズンの時間をより大事にしている」

支えてくれるファンにしっかり感謝しプレーで貢献していきたい、と新シーズンに向けて決意している(2024.9月 撮影・編集部)


――開幕まであとわずかとなりましたが、調子はいかがですか?

磯谷奏汰選手(以下磯谷と表記):そうですね。順調に練習もできていますし、調子的にもすごく良いと思います。

――このオフはどんな感じで過ごしてきたんですか?

磯谷:そうですね、オフシーズンにやることや方法はどのチームにいても変わっていないのですが、この夏のオフシーズンもとにかくトレーニングをして、新シーズンに向けての体作りを進めてきました。

――始動したのはいつからですか?

磯谷:世界選手権(※)も終わってすぐ、日本に帰ってきて1週間ぐらい休んでからすぐにトレーニングを始めていました。


――5月中旬ぐらいにはもう動いてるっていう感じですね

磯谷:はい。氷上練習にはあまり乗ったりすることはできなかったんですけれども、陸上でトレーニングを始めて。ほぼほぼ1週間も休んでいないかもしれませんが、その後はずっとトレーニングです。

※ルーマニアで行われた世界選手権ディビジョンIAは2025年4月27日~5月3日の日程。日本は6チーム中4位で残留を決めている。

――それは全然苦にならない?

磯谷:そうですね。トレーニングをするのも好きですし、シーズンももちろん大事ですけれども、自分の中ではオフシーズンの時間をより大事にしているので。オフシーズンの過ごし方によってシーズンの内容が変わってくると思うので、トレーニングをしよう、という気持ちはオフの方がより強いです。自分の中でオフシーズンでなければできないことをどんどん積み上げていこうという気持ちです。

――具体的にはオフシーズンのトレーニングってどういうことをするんですか?

磯谷:試合がある週だと疲労が溜まってしまうこともあるので、強度の高いトレーニングをオフシーズンに集中して行っています。ウエイトトレーニングでのおもりの重量を上げたりとか、エアロバイクをこぐときにも負荷を上げてペダルを回したり。心肺機能を高く維持するために肺や心臓などに負荷をかけるトレーニングもしないといけないので、そういう練習はオフシーズンに徹底的にやります。オフシーズンこそ一番差がつく、と自分は思っているので。そこでできる限りのことをやろう、という思いで取り組んでいます。

レッドイーグルス北海道入りとなった決め手は? 

――今シーズンからレッドイーグルス北海道に移籍しました。なぜ移籍を決断したのか? その理由をぜひうかがいたいです

磯谷:昨シーズンを終えて、ありがたいことに複数のチームからオファーをいただいたなかで、レッドイーグルス北海道からお話をいただいた際、自分の必要性というか、「レッドイーグルス北海道にとってどれだけ必要な選手なのか」、本当に自分を必要としてくれているんだな、という気持ちをとても感じました。そこが一番大きな決め手だったのかな、と思います。

――昨季はアイスバックスで2冠(全日本選手権・ジャパンカップ)を取って、いよいよ3冠も、というところまで行きました。そのチームから今季レッドイーグルスに移籍したというのは何かやはり理由というか、どんな思いがあったのですか?

 磯谷:やっぱり本当にレッドイーグルス北海道が自分の存在をとても必要だと思っていてくれるのを感じたので。そこが一番大きなことだと思います。

――小川勝也新監督ってどんな感じの方ですか?

磯谷:本当に細かいところからも1つひとつ丁寧に教えてくれますし……。今のレッドイーグルス北海道にとてもフィットする監督だ、ということは感じていて本当にチームはすごく良い方向に進んでいると思います。

入団記者会見では小川勝也新監督(左)とがっちり握手し笑顔を見せた 

――良い方向に滑り出せている感覚があるんですね。練習ではもうだいぶチームにフィットしてきましたか?

磯谷:そうですね。練習に入ってからすぐに馴染めました。今はもう苫小牧で住む家も決めて、順調に練習に集中できています。 

――日光でもファンが多かった磯谷奏汰選手ですが、苫小牧も熱心なファンが多いので人気が爆発しそうな気がします

磯谷:そう言っていただけるのは嬉しいです。日光の皆さんもそうでしたが苫小牧のみなさんが本当に温かく迎え入れてくれた、ということにはすごく、心からの感謝しかないですし、やっぱり優勝することがチームのためでもあり、ファンのみな様のためでもあると思うので。ファンの方々が応援してくれていることは本当に僕たち選手の力になっているので。アイスバックスのときも応援がすごく力になっていたのでもちろん日光のみなさんに今でも感謝しています。どのチームでプレーするかにかかわらず、そこはしっかりと感謝して、優勝できるように1試合1試合、一生懸命に自分のプレーを出すことで貢献していくしかないと思っています。

――個人的にレッドイーグルス北海道で成し遂げたい目標はありますか?

磯谷:個人的な目標としてもやっぱり『優勝』というのが最大の目標です。優勝を目標にすれば良いプレーも自然と出てくるはずだし、やはり勝てるプレーになってくると思います。どのチーム相手にでも毎試合毎試合しっかり戦っていくことが大事だと思います。

――今季からプレーオフ枠は4チームになり、また昨季とは違うプレーオフの形や雰囲気になる。

磯谷:そうですね。4チームがプレーオフには行けますが、プレーオフでもファイナルはホームリンクでやりたい。そのためにもレッドイーグルスはやっぱりレギュラーシーズンを1位で終わらなければいけないと思っていますし、レギュラーシーズンの目標はそこを照準に置いています。

安平で行われた「CANADIAN CAMP2025」ではポイントポイントで子どもたちに声を掛け教える姿が印象的だった

――ちょっと話題を変えて。先日、安平で行われたスクールでは石田陸選手(ECHLブルーミントン・バイソン)とともに熱心に子供たちを教えていましたが、その時の磯谷奏汰選手の表情は印象的でした。スクールで子供たちに指導したり、交流したりすることでもたらされる良い点はなにかありますか? 

磯谷:そうですね。子供たちと触れ合うこともすごく楽しいですし、自分としても学ぶことがいろいろと多いです。スクールで教える、という時間や経験も自分の中でとても大切にしています。子供たちにとって良い影響を与えられるように、などいろいろと頭も使っているので。やっぱりスクールで教えていて、楽しいなと感じます。

――コーチングをしながら磯谷選手自身が学べることとは?

磯谷:忘れがちな基本的なことをもう一度自分自身でも思い出させられたりすることはよくあります。教える側として子供たちからエネルギーをもらってそれを自分のエネルギーにも変えることができますし。

――なるほど。これからもオフのスクールなどでは積極的に子供たちを教え、交流していきたいということですね?

磯谷:そうですね。自分でも、子供たちから学べることはすごく多いなと思います。

キャンプでのデモンストレーションでは石田陸選手とのコンビで鋭い動きを見せる

――そういえば、レッドイーグルスってファンサービスに力を入れていて結構選手のイベント参加なども多い

磯谷:チームとして一般のお客さんにアイスホッケーをどんどん広めていくという思いでやっているので、そういう部分ではイベントなどに出演するのももすごい大事なことですし、そこは自分としても協力していきたいです。

――テレビ出演なども時々あるじゃないですか?そのあたりはいかが?

磯谷:そうですね、まだテレビとかは呼ばれてないんですけれども。喋るのが苦手なのであんまり……(笑)。なんていうんですかね……出る、となったら、うん、ちょっと緊張しちゃうんですけど、うん、そこも頑張ります!

弟・建汰選手とともに。日本代表でオリンピックに出場し、アイスホッケーの未来を切り開く

――アジアリーグでの戦いももちろん重要ですが、日本代表についてもお聞きしたい。来年5月、ポーランドでの世界選手権ディビジョンIAで2位以内になれば悲願のトップディビジョン昇格を果たせる。日本代表は今季その大チャンスだと思うのですが、代表に向けての思いは?

磯谷:そうですね。日本代表でオリンピックに出る、ということがアイスホッケーの認知度や人気向上に向けてとても大事になってくるので、そこも目標の1つにおいています。プレイヤーとしてやるべきことはアジアリーグの試合でも代表の試合でも同じなのですが、シーズンを過ごす中で調子を落とさない、ということがものすごく大事なので、そこはアジアリーグでも代表でもしっかりやるべきことをやる、と集中して臨みたいです。

――プレーとしてはそんなに変わらないけれども、磯谷奏汰選手の味、良さをどんどん出していくというところですか?

磯谷:もちろんチームと代表ではシステムなど違う部分もあったりはするんですが、自分の意識するポイントとしてはどの試合でも自分の良いプレーを出していかにチームに貢献できるか、ということは変わらないので。そこにはしっかりこだわるということです。

――ジュニア時代からキャリアを積み重ねてきて、自分のプレーがちょっと変わってきたといった部分はありますか?

磯谷:あまり小さなころのことは全然覚えていないので、どう伝えればよいのかわかりませんが、”ゴールに向かう姿勢”というところはずっと大事にしてプレーをしてきました。その点ではプレーを重ねるたびにだんだんと上手くなっているというか、成長をしてきているのかなと思っています。

――ゴールに向かう姿勢、点を取りにいく姿勢は変わらずずっと磨き続けてきた?

磯谷:そこを意識してやってきましたので、自然と成長しているのかな、と思います。

――弟の磯谷建汰選手のAHL(NHL2部)入りが決まりました。子供の頃から兄弟として切磋琢磨してこられたと思いますが、そのあたりどういう気持ちですか?

磯谷:弟とは仲が良くて、子供のころからライバルとは本当に1回も思ったことがなくて、なんかもう普通にすごい仲が良いので。今回のAHL入りが決まったと知った時にも「頑張れよ」ぐらいしか思ったことがないです。この夏に日本代表合宿で一緒に練習したときもすごく楽しかった。やっぱり弟と一緒にホッケーをやると楽しいですし、日本代表として一緒のチームで、日本を背負って一緒に戦いたい、という思いも今すごくあります。「頑張れよ」と伝えましたけれども、一緒に日本代表としてオリンピックを目指して前に進んでいければと思っています。

――一緒に練習すると楽しい、と今おっしゃいましたけれども、実際に兄弟で氷に乗ると、どこが一番楽しいですか? 意思疎通がビシッと来るとか、パスがうまく繋がるとか?

 磯谷:どうでしょうね……。シンプルに仲がいいからホッケーをしていても楽しい、ということかもしれないし。なんだろう、意思疎通ができてるいるかどうかはわからないですけれども、うん、一緒にやっててとにかくすごく面白いし、楽しいし、そこは本当にそう思いますね。

――このオフでは建汰選手とは会いましたか?

磯谷:日本代表の合宿のときだけです。一緒に実家でちょっとのんびりってこともなかったです。僕自身も実家にはこの夏ほとんど戻っていないので。

――そうなんですね、お互いにそれぞれの目標に突き進んでらっしゃる。日本代表ではタイミングとか怪我もあったので、なかなか世界選手権で兄弟揃い踏みということが今までなかったのですが、次の世界選手権は楽しみにしています。

磯谷:まずは代表に選ばれるところからお互いに頑張らないといけないですが、来年の世界選手権ディビジョンIAでは一緒にプレーして、世界のトップディビジョンを目指して全力で戦ってきたいと思います。

――来年は昇格の大チャンスだと思うので本当に楽しみにしています。スカルディ代表監督とはこの夏に話したりなどしましたか?

磯谷:はい。合宿でお話ししたぐらいですが、自分のプレーで「ゴールネットに向かってドライブしていく姿勢は代表においてもすごく必要だ」、と言っていただけているのでそこは常に心がけてプレーしています。

「勝つ」ことが周囲への恩返し。その瞬間を求めて全力で戦いつづける

――ガラッと質問を変えますが、アイスホッケーの面白みというか、魅力について。磯谷選手自身はアイスホッケーのどういうところが好きですか?

磯谷:そうですね。やはり見る面白さとプレーする面白さって少し違うような気もするのですが、プレーする選手として自分はアイスホッケーがすごく好きで、プレーすること自体がひたすら楽しいです。見る側の方々からしたら、展開が速いとかスピード感とか、選手同士のコンタクトもあるスポーツなのでそういうポイントをぜひ楽しんでいただければと思います。

――プレーヤーとして一番楽しい瞬間は?

磯谷:やはり勝ったときですね。試合に勝ったときが一番嬉しいです。プレーではゴールを決めたときもすごく嬉しいですし、アシストをしたときも嬉しいですし。気持ちのぶつかり合いっていう部分もすごく自分としては楽しいので、はい、そういうところをひっくるめて全部ですね。勝つのはチームのためでもあって、監督・コーチ陣のためでもあり、応援してくださっていうファンのみなさんのためでもある。その部分、『勝つ』ということを一番大事にしています。

――最後に改めて日本のアイスホッケーファンに向けてメッセージというか、意気込みをお願いします

磯谷:チームの目標としてはやはり優勝することが最大の目標なので、もっともっと自分のプレーで優勝に貢献できるように頑張りたいと思っています。自分のことを知ってくれ応援してくれるきっかけとなるのはやはりプレーを見て、というところだと思うので、新シーズンではアジアリーグでも代表でも自分らしいプレーを存分に出していきたい。応援してくださっているみなさまへの感謝を忘れずに1試合1試合を大事に戦っていきたいと思います。

(インタビュー日:8/28)

【磯谷奏汰選手プロフィール】
磯谷奏汰(いそがい そうた)  2001年2月14日生まれ。長野県軽井沢町出身。180㎝、80㎏。
フォワード。レフトハンド。
軽井沢バファローズでアイスホッケーをはじめ、埼玉ウォリアーズを経て中学生のときにロシアへ渡航しクリリヤ・ソビエトフのジュニアチームで腕を磨く。その後オーストリアOkanagan HC Europe、ノースアイオワ・ブルズ、メイソンシティ・トロス(ともにアメリカNA3HL)などでのプレーを経て2022-23シーズンにアジアリーグ・ひがし北海道クレインズに入団。2023年からは栃木日光アイスバックスに移籍し2シーズンをプレー。昨季は32試合にフル出場し16ゴール20アシストを記録した。今季はレッドイーグルス北海道に移籍し、チームとして2011‐12シーズン以来(当時のチーム名は王子イーグルス)となるアジアリーグ制覇を目指す。



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