49セーブの大奮闘。横浜グリッツGK古川駿が背負った”看板”
勤務先の「ミツハシライス」デーに先発マスクを被った古川の心境は……

受けたシュート数は……。1月4日に行われたアジアリーグの試合はGK古川駿にとって怒涛の見せ場となった

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵

アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
1月4日(土) レギュラーシーズン@神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:1091人
横浜グリッツ 1(0-0、0-0、1-1、0-0、0-1)2 レッドイーグルス北海道
ゴール:【グリッツ】大澤 【レッドイーグルス】小林、高橋(GWS)
GK:【グリッツ】古川 【レッドイーグルス】成澤
シュート数:【グリッツ】23(7、6、7、3、0) 【レッドイーグルス】51(21、15、12、2、1)

ひと足早い仕事始め「やっぱり勝つ試合を……」

 2025年1月4日、横浜グリッツは本拠地KOSĒ新横浜スケートセンターにレッドイーグルス北海道を迎えてアジアリーグ後半戦に突入した。ここに並々ならぬ覚悟で臨んでいたのが、先発GKの古川駿だ。
 デュアルキャリアとして勤務する「ミツハシライス」デーとして行われた試合で横浜グリッツのゴールを守り、延長戦までの65分で受けたシュートは50本に及んだ。最後はPSS戦で力尽き1−2で敗れたものの、一足早い「仕事始め」をどんな心境で迎えたのか。

「味方がすごくいい守りをしてくれて、本当に危険なシュートというのは防いでくれたのでこのスコアになったと思います」 。古川は第1ピリオドに21本、第2ピリオドに15本と、グリッツが放った倍以上のシュートを浴び続けた。そして第3ピリオド18分47秒、レッドイーグルスのFW小林斗威のゴールで、ついに先制点を許す。ただここからの粘りに、今季勝ち点を伸ばしているグリッツの進化が詰まっていた。

 残り1分ほどのところで古川をベンチに上げ、6人攻撃を仕掛けた。敵陣でパックを回し、守備を崩しにかかったグリッツは、19分22秒にFW大澤勇斗がゴール左の角度のないところから同点ゴールを叩き込む。ベンチからこの瞬間を見守った古川も「1分少しというところから追いついてくれた。本当に素晴らしい仲間です」と感謝する。

 今季のグリッツは昨年までと比べ、パックを保持してゲームを作っていく展開が増えている。夏から続けてきた基礎体力の強化と、どんな時でもパックを繋ごうとする新たなスタイルが生んだ成果だ。ところがこの試合は、レッドイーグルスにパックを支配され、守勢に回る時間が長かった。粘り腰を試されるような試合を、古川は後ろからどんな思いで見ていたのか。
「やっぱり技術だけで相手を圧倒するゲームはまだできない。シーズンを通じていろんな試合がある。中にはフォアチェックが機能してグリッツが攻められる試合もありますけれども、こういう試合でちゃんと守れていると、シーズンの戦いも安定すると思うんです」

デュアルキャリアへの感謝「会社の理解がないと100パーセント無理」

最高の集中力をもって試合に入る。その心意気でこれからもビッグセーブを見せ続ける

 グリッツにとって、レッドイーグルスは大きな壁であり続けた。2020-21シーズンからアジアリーグに参戦し、ジャパンカップで初めて手合わせしてから実に26連敗。昨シーズンの2023年12月3日、ホーム新横浜で行われた試合を4−2でものにし、ついに初勝利を挙げた。この試合でゴールを守っていたのは古川だった。
 そして今季は、グリッツの地力が上がったこともあってか接戦の連続だ。2024年11月30日、新横浜で行われたジャパンカップに4−3で勝利した時のGKも古川だった。フリーブレイズ時代から対戦してきた強敵との相性を問われると「得意とは思いませんけど、いいイメージはあるかもしれません。対戦するのは楽しいですし」。勝てば下克上と言われるようなカードでの強さが、古川の特徴かもしれない。

この日は第3ピリオド終盤までレッドイーグルスの分厚い攻撃に対してゴールを死守した

 この日のリンクでは、勤務先のミツハシライスのキャラクター「ミツハシくん」がイベントに参加するなど盛り上がり、会社の関係者も多数来場した。その中での先発マスクは、どんな試合よりプレッシャーがかかったはずだ。
「デュアルキャリアというのは、会社の理解がないと100%無理なんです。こんなにいろんなイベントをやっていただいている中で、ここでいいところを見せたいとはもちろん思っていました。やっぱり勝つ試合を見せてあげたかったですけれども……」。まず口にしたのは感謝の念だ。
 会社での仕事始めは6日だが、普段は広報業務に関わる古川にとっては「この日が仕事始めだったのかもしれませんね。まだ働いている感じはないですけど」と笑う。ミツハシライスは横浜グリッツの他にもバスケットボールB3の横浜エクセレンスや、サッカーJリーグの横浜FCを支援している。
「スポーツに理解があるというか、勤めていてもすごく応援してくれているのは伝わりますし、とても働きやすい会社だと思っています」。会社の看板を背負っての試合も、心地よさが後に残った。

 今季のグリッツは、新加入のGK冨田開の出場機会が増えている。このレッドイーグルスとの連戦も初戦が古川、2戦目が冨田という併用だった。2人は共に青森県出身。「昔から知っている選手ですし、海外では厳しいシーズンを送ったことがあるのも知っています。でも実際にプレーを見ればやっぱりうまい。2人、いや(小野)航平さんと3人で切磋琢磨してやっていければ」。
 岩本裕司ヘッドコーチも「GKが安定したチームはやっぱり強いものですよ。最近の日本代表だって、やっぱり成澤(優太)が安定しているのが強み」と口にする。現在フリーブレイズを抜いてリーグ4位のグリッツ。最下位脱出には守護神たちの奮戦が欠かせない。

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