「このチームの歴史を変えたい」13年の海外生活から戻った三浦優希が、”勝てていないチーム”を選んだ理由

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

早稲田実業2年在学中に海外挑戦を決断。単身海を渡り、チェコ、そしてアメリカへ。13年を日本国外で過ごしたFW三浦優希(背番号36)が、今季からついにアジアリーグアイスホッケー、横浜GRITSでプレーする。日本のトップリーグで三浦優希がプレーするのは、もちろんこれが初めてだ。
7月19日に30歳になった。娘はもうすぐ1歳を迎える。数ある選択肢の中から、彼はなぜ、創設以来まだプレーオフに進んだことのないチーム・横浜GRITSを選んだのか? 9月12日の開幕を前に、話を聞いた。

「いろんな要素のタイミングが重なった」 13年の時を経て、日本へ

日本に戻る、と決めた理由から聞いた。三浦は誠実な性格そのままに、一つひとつを丁寧に説明してくれた。
「日本に戻ってくると決めたのは、結構いろんな要素のタイミングが重なった、ということです。ひとことで表すと、そういう感じかなと思っていて」

具体的には、4つあったという。
「まずは、NHLを目指してずっとアメリカのプロリーグで戦ってきた中で、ECHLで5年間プレーして、なかなか上にあがれなかった部分。ある程度、自分の実力を客観的に把握することができたこともあります。年齢面でも今年30歳になるし、娘が生まれて、もうすぐ1歳になるところですけども、そういうところとか」

そして4つめ。
「早実の途中で海外に出てしまったので、僕を応援してくれている多くのファンの方々はもちろん、家族にも友達にも自分のプレーを直接見てもらう機会がなかなか無かった。そういうような感情とか様々なことが重なったなかで、日本でプレーをするという選択肢が出てきた、という感じです」

なぜ、”勝てていないチーム”横浜GRITSを選んだのか

日本でのプレーの場を横浜に求めた。その理由は?

では、なぜ横浜GRITSだったのか。三浦はいくつかの理由を挙げてくれた。一つは、デュアルキャリアへの関心。アメリカにいた頃から、アイスホッケーで海外留学を目指すプレイヤーとその保護者を支援する企業「LeadOff Sports」で働いていた経験があった。
「そもそも自分自身が、デュアルキャリアに興味があった、というところもあったので。そういう意味でも、フィット感としては高いのかな、と」

もう一つは、街だった。
「横浜という場所自体が、実家の東京からも比較的近いというところで。家族が近い、それはやっぱり私の家族もそうですし、(妻の)家族もそうですし、というところの要素もあったり」

そして、三つめ。ここに、この移籍のいちばんの芯がある。
「日本のそれぞれのチームには、みんな知り合いがやっぱり多くいるんですけど。(横浜GRITSには)昔からよく知っている選手たちが、同期も含めて多くて。そのなかで、なかなか創設からプレーオフに行けていないチームであるということも含めて俯瞰して。『自分がチームに入ることでこのチームの歴史を変えたい』という気持ちがあったことも要素の一つでした」

若き日はチェコの名門チーム、リティーリ・クラドノのU20でゴールとアシストを量産。その後北米に挑戦し、厳しい環境と競争を乗り越えてNCAA1部のLake Superior State University (レイクスペリオル州立大)に入学。同大学で主力の座を掴むと、4年生時には大学25年ぶりとなるカンファレンス優勝やナショナルトーナメント(全国大会)出場に貢献する。その後北米プロリーグ・ECHLのアイオワ・ハートランダーズに入団すると初年度から10ゴール12アシストの活躍。4年目のシーズンには日本人で初のキャプテンに就任しチームを初のプレーオフ進出へ導く。日本人のプロチームキャプテンは他の全米プロ競技も見渡しても前例のない快挙だった。
アイオワ・ハートランダーズでは5年間プレーし、ゴールとアシストを合わせたポイントは147を数える。その実績を考えれば、優勝を争うチームへの道もあったはずだ。そう水を向けると、三浦は否定も肯定もせず、思いを語った。

「どちらのチームの方がいい、ということではあまりなくて。本当に、アジアリーグのどのチームもすごくいいメンバーが揃っていますし、それぞれのチームに強みがある。個人的には、すごく強いところに行って、そこのメンバーの一員になるっていうのも、もちろんいいな、とは思うんですけれども。これまでアイオワ(ECHLアイオワ・ハートランダーズ)でやっていたりとか、大学時代(レイクスペリオル州立大)もそうでしたけど、どちらかというと、普段あんまり勝てていないようなチームに入って、そこで自分自身もチームメートと一緒に頑張って、一勝をつかみにいって、それを積み重ねていって、というところに結構やりがいを感じるタイプなんです」

横浜GRITSでの目標は、プレーオフ初進出か? それとも、その先か? 答えは早かった。
「優勝を目指しています。もちろん、プレーオフに行くことが大事ですし、それを成し遂げることで歴史を一つ変えられることになるとは思うんですが、そこで満足はできない。全日本選手権、そしてアジアリーグ制覇を目指します」

「今日勝てたらいいな、ではなく」 北米から持ち込む"王者の振る舞い"

8/23に行われたXHL東京ワイルズとのプレシーズンマッチではMVPに。早速チームを牽引する活躍を見せている

三浦が今季を迎えるにあたって、意識して繰り返し使っている言葉がある。『チャンピオンシップチーム』だ。

「チャンピオンシップチームとしての戦い方というか、振る舞いというか、そういったところを、選手それぞれが強く持つべきだと思う。そもそも、勝つことがスタンダードのチームであるという意識を、選手一人一人が持たないと、と思っています。『今日勝てたらいいな』じゃなくて、そもそも勝つことが当たり前に求められる状態に、まずは選手一人一人が、やがてはチーム全体としてなる。そこがすごく重要だと思う」

その先に、目指す姿がある。
「相手チームから『グリッツと試合するのは嫌だな』と、そういうふうにやっぱり思われるぐらいのチームにならないと、なかなか上には行けないと思います」

これは、机上の理想論ではない。アイオワでの日々が、そのまま裏づけになっている。
「アイオワ時代の僕らのチームって、スキルレベルがすごい選手がたくさんいたか、と言われるとそうではなかった。でも、やっぱりハードワークを徹底して徹底して……。相手が嫌がるプレーを継続することで、その結果、勝利をつかめることも多かったんです」

だからこそ、いまのチームに足りないものが見えている。
「うちのチームは、本当に良い選手がたくさんいるんです。そのスキルに加えて、貪欲さというか、勝負強さみたいなところ。『目の前の相手に絶対負けない』というような、そういう熱い気持ちを全員がもっともっと持っているようになること、が重要だと思っています」

これは、いまのチームへの批判ではない。
「こういうと、なんか(今は)持っていないのか? みたいに感じられるかもしれませんが、多分そんなことはないです。それこそ日本代表メンバーも今、多いですし。みなその気持ちを持っている選手だとは思うのですが、それをもう一段階、強化していくというか……。『GRITSは本当に優勝を目指すチームなんだよ』ということはスタッフも含めた全員が理解し、腹の底から落とし込んでいくべきポイントだと思う。自分自身がそこで、ポジティブな影響が与えられるような存在になりたいと思っています」

「TENACITYが足りない」 大学時代に受けた指摘が、いまの基準になった

ゴール前のエリアで身体を張るなどフィジカルなプレーは北米で戦い抜く中で磨き上げた

三浦には、レイクスペリオル州立大2年生の頃、コーチから「TENACITY(テナシティ)が足りない」と厳しく指摘され、試合に出してもらえなかった時期がある。TENACITYという単語は、日本語にすると「粘り強さ」と訳されるが、その一言で表せるだけではない。「闘争心、競争から逃げない強さ、勝利への執念、負けてもそこから立ち上がる不屈の心……」といった精神すべてを包括するワードだ。
当時、ヨーロッパスタイルの名残があった三浦は、ゴール前のチャンスで確率論を考え、自らシュートを打つことなく味方へのパスを選択することが、まま、あった。自分が打って決める、という気持ちが見えてこない姿勢をコーチに喝破された。北米でのアイスホッケー選手はチーム内でも常に競争がつきまとう世界で、戦わないものには何も与えられないマッチョな世界観。三浦はそこで自らの弱点に気付き、それこそメンタルから見直してプレースタイルを大幅に変え、生き残った。その強烈な経験を、いまどうチームに伝えるのか?

「やっぱり日頃の練習が、すべてかなと思います。例えば、1対1や複数対1人を含めたバトル系のドリルといった日頃からの練習で、どんなバトルにも勝つことにこだわって戦うこと。パックバトルでもコーナーバトルでも、ゴール前での身体を張った争いも含めて、お互い勝ちにこだわらないといけない」

答えは、抽象論ではなかった。そして、こう続けた。この一言に、三浦がチームに持ち込もうとしているものが、はっきり表れている。
「なんか、こう簡単にパックをオーバー(クリア)してしまうようでは、それこそチャンピオンシップチームの振る舞いではないと思う。ある意味では、『それがチャンピオンシップチームでやることかどうか?』ということが、一つの具体的な基準になっている」

言葉ではなく、基準を置く。そのうえで、自分自身がその基準を満たしてみせる。
「僕自身も、やるべきことをしっかり見せていきたいなというふうに思っています」

「アスリート社員としての採用は、僕が初めてでした」 練習後もしっかり働く

もちろん語学も堪能だ。英語もチェコ語も駆使しチームメイトとコミュニケーションをとる

横浜GRITSは、全選手が働きながらプレーするデュアルキャリアを推進するチーム。三浦も総合コンサルティング事業を手がける企業、ライズ・コンサルティング・グループで働いている。リモートも駆使して、8時間以上きっちりと勤務する。所属はビジネスデベロップメント部。コンサルタントとしてクライアント企業に入るのではなく、その前段階を担う。

「新規のクライアントさんに、先方の課題を聞いて、当社のメンバーならこういうことができます、といった提案をさせていただいたり。やっていることとしては、フィールドセールスという言い方をされますけど、そこに近いかなっていうような感じです」

アイオワ在籍時でもニューヨークに本拠を置く留学支援のスポーツエージェンシーに属して仕事をしていた三浦だったが、日本でプレーするあたって転職をした。
「そもそも、このライズ・コンサルティング・グループで、アスリート社員として採用いただくのは、私が初めてなんです。業界経験のなかった自分は、普通なら入れないところだと思うので。そういう意味で、本当に会社の皆さんには感謝しきれないくらいです」

朝の練習を終えると、リンクから近い自宅に戻り、そこからはビジネスマンの顔になる。ホッケーでも仕事でも一流、を標榜するGRITSの選手らしい働きぶり。「アイスホッケーを僕がプレーしていることに対して、本当に、すごく理解が深い会社だというところは、ぜひ書いていただけたら嬉しいですね」と笑顔を見せる。ひとたびリンクからおりれば、常に周囲への気配りと感謝を忘れない三浦らしい言葉だ。新横浜での開幕戦には、同社の仲間が10名ほど観戦に訪れる予定だというが、氷上での三浦のハードなプレーに驚かされ、ゴールを奪う姿の格好良さにさらに驚かされるに違いない。

「開幕戦からフィジカルに行きます」 9/12 スターズ神戸戦へ

2016-17シーズンに20歳で日本代表に抜擢されて以来、岩本監督とは五輪予選・世界選手権でともに世界と戦ってきた

開幕戦の相手は、スターズ神戸。三浦は、相手の出方をこう読む。
「おそらく、倒そうという気持ちで来ると思いますし、ハードに来るんじゃないかなとも思っているので。そういう意味でも、やっぱり引き締めて、こちらのプレーを一つ一つしっかりやっていくというところが、すごく重要になる。補強という部分でも、神戸は結構進めていると思うので。そういう意味でも、ちゃんと相手のことを調べたうえで、しっかり戦っていきます」

チームを率いるのは、岩本裕司ヘッドコーチ。三浦とは日本代表でも長く一緒だった。
「GRITSの練習に参加して『岩本さんのやりたいことがちゃんと浸透している、いいチームだな』と率直に感じました。日本代表でも5、6年前から、それこそもっと前からもご一緒させていただいていたので、岩本監督がやろうとしているホッケーについては理解しています。フォアチェックに行く部分だったりとか、パックを奪ってからの素早い攻撃展開とか、逆に奪われてからのトランジションといった部分も、好きというか、楽しく思えるところです」

一方で、自分に求められる役割は、これまでと変わるだろう、という自覚もある。
「アイオワでは、僕はスキルプレーヤーというよりはハードワーカーみたいな形で。どちらかというと、ポイントは主力選手たちが取っている、みたいな感じではあったんですけれども。GRITSでは、オフェンス面でのプロダクション、ゴールやアシストというところをチームからは期待していただいていると思うので。今までよりは攻撃に直接絡む部分が多くなると思います」

海外から見たアジアリーグの印象について聞くと「アメリカはやっぱり、前へ前へ、というホッケーがすごく多かった。どちらかというと、日本のアジアリーグは後ろから組み立てて、そこからつなげていくみたいなところも要素としては大きいのかな、とも思います。それには適応したい」と冷静な分析も返ってきたが、新横浜のリンク上ではアメリカで培ってきた”TENACITY(テナシティ)”を、遠慮なく出し切るつもりだ。

「相手が『今日、グリッツとの試合は嫌だな』となるようにするためには、開幕戦から、そのメッセージを送り届ける必要がある。自分自身としては、持ち味であるハードなフォアチェックなどを駆使して開幕の週からフィジカルに行きます。それをチーム全体として徹底していければ良いと思っています」

『チャンピオンシップチーム』にふさわしいプレーを横浜GRITSにもたらす

北米仕込みのフィジカルなプレーと欧州仕込みのパスワーク。それぞれを高いレベルでこなす三浦優希選手のプレーにぜひ注目だ

日本復帰が発表されたとき、三浦のもとには多くの反響が届いた。
「本当にありがたいことに、一番最初のSNS上でのリリースが出たときも、すごく多くの方が反応してくださって。オンラインでもオフラインでも、たくさんお声がけいただきました。長らく日本にいなかった自分のことを、温かく迎え入れてくれる方がいるのはすごく嬉しいですし、その人たちの期待に応えるプレーをしないといけない、と強く感じています」

最後に、新たなホームである横浜のファンへ向けてのメッセージを聞いた。
「横浜GRITSは、先ほども言った通り、アジアリーグ優勝を本気で目指しているチームであり、今年のチームは、全部が揃っていると思います。ゴールキーパー、ディフェンス、フォワード、コーチ陣。全員で『優勝する』という気持ちで戦うので。熱い応援をいただけたら嬉しいです」

そして、こう締めくくった。
「個人的にも、『チャンピオンシップチーム』を体現するプレーをしっかり心がけて。ハードワークを徹底したプレーを、横浜の皆さんにお届けすることをお約束します」

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