2季ぶりゴール権平優斗「肩の荷が下りました……」 レッドイーグルスに大敗→大勝、新横浜爆アガリの影に「久慈塾」

2シーズンぶりのゴールをあげた権平選手。開幕から動き自体は良かったがようやく結果を出した

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵

アジアリーグアイスホッケー2025-26
10月12日(日) @KOSÉ新横浜スケートセンター 4回戦 観衆:905人
横浜グリッツ 8(2-1、3-3、3-0)4 レッドイーグルス北海道
ゴール:【グリッツ】久慈x2、大澤x2、権平、ロックウェル、杉本、池田 【レッドイーグルス】山田、小林x2、中島(照)
GK:【グリッツ】冨田 【レッドイーグルス】佐藤→成澤
シュート数:【グリッツ】32(13、8、11) 【レッドイーグルス】48(12、21、15) 

土曜日4−9から日曜日8−4へ……グリッツの2日間に何があったのか?

「爆アガリ」というキーワード通りの空気が、スタンドを包んだ。10月12日(日)に本拠地・新横浜で行われたレッドイーグルス北海道との試合、横浜グリッツは前日4−9で大敗した相手を8−4で破った。今季4度目の対戦で挙げた初勝利というだけではない。やられっぱなしでは終わらないというチームの「進化」を見せつけた一戦だった。

 口火を切ったのは、グリッツFW久慈修平のスラップショットだ。第1ピリオド7分43秒、グリッツのフォアチェックが効いて浮いたパックをDF松金健太が右サイドで拾うと、ゴール正面で張った久慈にパス。正確にGKの右側を打ち抜いた。昨日とは違うというメッセージのような先制点に、リンクは沸いた。

先制ゴールを決めて久慈選手はこのポーズ。この1点がチームに勢いをもたらした

 人差し指を一本立てながら、チームメートと喜びを分かち合った久慈は「僕らのセットが、1ピリからしっかり示すことができた。チームにとってもいいセットチェンジだったんじゃないですかね」。グリッツはこの日、セットを少し組み替えた。久慈はFW岩本和真、大澤勇斗と組んでのプレー。すぐに1−1の同点とされたものの、10分37秒には大澤のゴールで勝ち越して第1ピリオドを終える。そして第2ピリオドは早々に、若手が続いた。

 2分54秒、松金のシュートで出たリバウンドを、FW権平優斗がゴールに叩き込む。これが2季ぶりのゴールだ。何事かを叫びながら、チームメートにもみくちゃにされた。試合後に漏らした「肩の荷が下りました……」は本音だろう。

「ずっと悩んでいて。求められていることを実行するのも必要ですけど、数字の貢献というのを全然できていなかったので」。ルーキーだった23−24シーズンには、レッドイーグルス戦で2ゴールし、チームを勝利に導いた試合もあった。ポジションがウイングからセンターに変わったとはいえ、得点に絡めなくなったのは誰より本人が重く捉えていた。

 このゴールを喜んだのが久慈だ。レッドイーグルスから移籍してきての2シーズン、権平とは試合のある日もない日も、ずっと練習を共にしてきた。DF務台慎太郎、DF畑山隆貴と集まり、いつしか「久慈塾」と呼ばれるようになった。ところが昨季の権平は、アジアリーグ 30試合、ジャパンカップ6試合に出場したもののノーゴール。何が変わった結果のゴールだったのだろうか。久慈は権平の変化を、厳しい言葉も交えながらこう説明する。

「ずっといろんなことを言ってきましたけど、やるべきことをできたんじゃないですかね。ゴールに突っ込んでリバウンドを叩く。今日みたいに積極的にゴールに向かっていけば、その後もチャンスになる。運動量がないとダメな選手なのに、これまでは何をやりたいかを示せていなかった。周りのおかげじゃなく、自分でできるセンターフォワード(CF)になってほしいんですよ」

170センチの久慈修平とともに練習する3人、“師匠”が指摘する違い

オンアイスでもオフアイスでもまさにお手本。久慈修平選手の存在がグリッツに有形無形の力を与えている

 久慈は身長170センチ、権平も166センチ。ともに体格に恵まれているとは言えない2人だ。権平が久慈とともに練習するのは「自分もトップを目指してやりたいので。あれだけ長い間代表で、エースとしてやってきた選手ですから。ここぞという時に決められるのはなぜなのか、盗みたいと思って」。間近に接してきて驚いたのが、とにかく頭を使ってプレーしていることだ。状況を読み、備えていく。ホッケーはその繰り返しなのだ。

「(若手は)惰性のホッケーしかしてないって、よく言われるんです」

 一方、久慈がそれに加えて感じているのは、体幹の強さの違いだ。「やっぱり、基礎的なパワーが足りないとはっきりわかったんじゃないですかね。パワーに関しては身長も年齢も関係ないんですよ」。毎日一緒に腹筋をし、塾生には別にメニューも与えている。しっかり詰まった体であれば、長身選手に負けない強さを生むことができるというのだ。他チームと比べて小柄な選手が多いグリッツが、続けて強化していかなければならない部分だ。

この2週間はグリッツにとっては過酷な日程だった。4日、5日、7日と韓国でHLアニャンと3試合戦い、7日の夜行便で帰国。新横浜のリンクで解散したのは8日の午前1時すぎだった。翌日は朝から仕事という選手も多く、通常なら氷上練習を組む水曜日をオフにして、土日のイーグルス戦に備えた。それでも心身の疲労は抜けなかった。久慈は「頭も反応も悪くて。何か体が重くて、気持ちも体も動かない」という状態だったという。

 岩本裕司監督も、初戦の大敗を「まずはメンタルでしょうね。みんな腰が引けていたし、パスもつなぎきれなかった。映像で見てもみんな疲れているのか、(スケーティングを)ストップじゃなくターンしちゃうんですよ。そうするとスペースができて、いいパスが通ってしまった」と振り返る。第2試合はニュートラルゾーンでの戦法を変えて臨んだ。「こんなに点を入れられちゃダメ。本当はロースコアで行かないと」とはいうものの、やられっぱなしで終わらなかったところに選手の進歩を感じている。

 久慈も、大敗後にしっかり切り替えられたところは高く評価している。「今までと違って、1人1人考えてこられたのかな。こういう(大敗する)試合も、シーズンを通じてはあります。もちろんプロとして避けないといけないんですけど、今回は今日の勝ちにつなげることができた」。アジアリーグに加わって6年目、ようやくここまで来た。

 グリッツはすでに11試合を戦い、シーズンの1/4を消化したことになる。5勝6敗の勝ち点14、得失点差−4は初のプレーオフ進出を目指す上で合格ラインギリギリだ。タダでは終わらないチームだと示し、もう一つ上のレベルを目指していく。

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