韓国代表の大変化……ダルトン抜きで臨む五輪予選にイ・ドンクが示した覚悟「いつか来ること」

イ・ドンクは韓国代表の課題に気づいている

取材・文・写真/今井豊蔵

ダルトンがついに「代表引退」……2月8日からコルティナ・ダンペッツオ冬季五輪3次予選

アジアリーグが休止されているこの期間は、日本代表も韓国代表も2026年に行われるコルティナ・ダンペッツオ冬季五輪(イタリア)の3次予選に参加する。
韓国はグループJに振り分けられた。8日からポーランド、ウクライナ、エストニアと4か国総当たりで戦い、1位になったチームだけが今夏の最終予選へ進出できる。
本戦には世界ランク1位から8位(カナダ、フィンランド、ロシア、スウェーデン、ドイツ、アメリカ、スイス、チェコ)と開催国のイタリア、さらに最終予選を勝ち抜いた3チームの計12か国が出場する。

ついに来るべき時が。世代交代をはかる韓国代表

韓国代表が五輪に出場したのは、開催国だった2018年の平昌大会だけで、本戦出場までにはまだいくつもの強国が立ちふさがる。ただ今回の3次予選は、世界ランキングでいえば21位の韓国に対してポーランドが22位、ウクライナが27位、エストニアが28位。昨年の世界選手権D1A(2部相当)で2勝し残留を果たしている韓国は、当然勝ち抜かなくてはならない「格上」なのだが、少しチームの事情が違う。
2015-16シーズンから、韓国代表として6度の世界選手権や平昌五輪でもプレーしたGKマット・ダルトン(HLアニャン)が不在なのだ。
ダルトンはアイスプレスジャパンの取材に対し、今回の不参加は「代表引退」を意味すると明らかにしている。昨季のアジアリーグでもセーブ率.945を残した守護神は、代表にとってもこれまで代えが効かない存在だった。ただダルトンも37歳。ついに来るべき時がきたのかもしれない。

代表の主将を務めるDFイ・ドンク(HLアニャン)も「ダルトンが代表に行かない日は、いつか来ることなので」と、覚悟していたという口ぶりだ。「韓国育ちのゴーリーにとっては多くのチャンスが来ることになります。アジアリーグでは試合に出る機会が少ないですけど、今回の大会では厳しい試合の経験を積める」と、代表の将来を考えた時にプラスだと考えている。

五輪3次予選の主戦GKとして期待されるイ・ヨンスン

主戦が見込まれるのは、HLアニャンでも2番手GKのイ・ヨンスンだ。今季のアジアリーグでは3試合に先発して3勝無敗を記録中。イ・ドンクは「いつも一生懸命やっているし、夏には自費で海外まで勉強に行ったくらいですからね」とその姿勢を称えたうえで「止めるものを止めているから勝率もいいし、厳しい試合になっても揺れない姿を見せてくれているから勝てている。努力しているのはわかるし、セカンドゴーリーとしての役割をきっちり果たしてくれている。世代交代する時には必要な選手になる」と実力も高く評価している。

五輪の経験をどう継承して行くか……平昌の氷に立った選手が感じる「責任」

さらに、韓国代表への参加は、HLアニャンに戻ってきた時の変化にもつながるという。「代表に選ばれて、プレーしたとなれば自負心も生まれる。チームに戻ってきた時に、さらに一生懸命やろうとなる」と指摘した上で、こうも続けた。「ダルトンの方が歳が上だから外れて行くというのではなくて、競争しながらポジションをつかんでほしい。十分その能力はあるし、伸び代もあるので」。
平昌五輪から6年が経ち、今回の韓国代表に五輪のリンクに立った選手は6人だけとなった。経験の継承は大きな課題になっていたが、そこに新型コロナ禍が拍車をかけた。アジアリーグが休止となった2シーズンのうちに、プロチームはHLアニャンの1チームだけになった。
平昌五輪の経験を、どうやって下の世代に伝えて行くのか。イ・ドンクはその継承を半ば義務だと考えてプレーしている。 「僕も今では歳が上の方じゃないですか。個人的な役割を考えると…。大学生にもいいディフェンスが何人もいるんです。彼らの助けになりたいという思いですね。若い選手は世界大会で外国の選手たちとやる時に、知らないことがたくさんあると思うんです。そこをサポートしてあげたい」

韓国代表の新たな得点源として期待されるFWイ・チョンミン

FWでは今季からHLアニャンに加入したイ・チョンミンが、2年ぶりの代表入りを果たした。アジアリーグでも13ゴール、15アシストを記録して新人王の有力候補となっている、スピードあふれるプレーが売りの選手だ。
これまで北米やスウェーデンのジュニアリーグでのプレー経験があり「アジアリーグではなかなか体の大きな選手とぶつかることがない。五輪予選は久しぶりにそういう機会になるので楽しみです」と頼もしい言葉を並べる。

五輪後に代表の強化をどう進めるかは、日本もかつて長野五輪後に経験した難問だった。かけられる予算も注目度も下がる中で、韓国は日本と同じ道を歩いてしまっている。ただ幸か不幸か、現在の男子アイスホッケー界は、世界選手権のトップディビジョン下位からD1B(3部相当)までの10数か国の力にあまり差はない。平昌で得た経験がどう受け継がれているかにも注目しながら、戦いを見つめたい。

◆韓国代表の五輪3次予選日程
2月8日 対ウクライナ
2月9日 対エストニア
2月11日 対ポーランド

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