苦しむ横浜グリッツ。今季初勝利&追撃へのカギは?

練習から激しく争う大澤(左)と鈴木

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

横浜グリッツが苦しんでいる。

ここまでアジアリーグアイスホッケーの公式戦(10月21日終了時点)を8試合戦い、いまだ勝ち星なし、あげた勝点は栃木日光アイスバックス戦であげた延長負けの勝点1のみ。

攻撃力のアップは感じられ、内容的にも決して昨シーズンより劣っていないようには見えるものの、要所要所でゴールに嫌われたり、ミスが出たりするなどわずかの差で勝ちきることができていない。
今シーズンのグリッツはレッドイーグルス北海道から移籍した大澤勇斗(おおさわゆうと)をはじめ、権平優斗(ごんだいらゆうと)、務台慎太郎(むたいしんたろう)など大卒新戦力の補強も怠りなく、「プレーオフ進出を本気で狙う」意気込みでシーズンインしただけに開幕からおよそ2ヶ月が経っても白星がない状態は、精神的にも非常に苦しいものと想像される。

そんななか先週は北海道ワイルズのホーム・釧路で交流戦2試合を戦った。しかし「公式戦のつもりでしっかり準備をして臨む」(浅沼監督)と戦った2連戦は0対3、3対3とこちらも勝利を奪うことができなかった。アジアリーグを盛り上げる存在となるためにも、このまま他の4チームから大きく離された最下位に沈んでいる状況は今期4年目をむかえた横浜グリッツには許されない。

今チームはどのような状況なのか? 追撃には何が必要なのか? 選手やスタッフの言葉から今現在の横浜グリッツに迫ってみたい。

鈴木ロイ「正直、自信をなくしている状態。少しずつ良い流れをつかむしかない」

木曜日早朝の横浜銀行アイスアリーナ。朝8時45分、選手たちが勢いよくリンクインし声が響くなか練習は始まった。選手たちの動きを見ていると決して悪くはないし、コンビネーションも上手く取れているように見える。しかし、未勝利という現実は選手たちの心に微妙な重圧をかけ続けているのも事実だ。

重圧はある。しかし選手同士でコミュニケーションを密にし打開を図る

そのあたりを正直に吐露してくれたのがフォワード(FW)の鈴木ロイ(すずきろい)だった。
「去年までは僕らグリッツは圧倒的にチャレンジャーとして臨んできました。でも昨シーズン9勝を挙げてさらに大澤さんをはじめとする実績ある選手も加わって、今シーズンは『準備をすればある程度いけるのでは』という思いが選手たちの間に広がっていたことは否めない。甘えとは言わないまでもそんな雰囲気を知らず知らずのうちに作り出していたのかもしれない。いまはチームの中で『何をすればいいのか』という部分が正直錯綜している状況です。(連敗脱出については)システムうんぬんでなく目の前の1つひとつなすべきことをしっかり遂行するしかない。チームが自信を失っているなか、選手同士で声をかけて、ポジティブな雰囲気をつくるために少しずつのアクションで良い流れを掴むしかない」

選手たちの間でいろいろと模索が継続して行われていることを教えてくれたのは渋谷一樹コーチ。コーチの見立てによると、やはりポイントはメンタルだという。
「プレーに関して、またスキルの部分については問題ないと捉えています。ここまで試合の土壇場のちょっとしたバトルで勝つか負けるか、そこにはハートの部分のほうが大きい。それを改善するために選手同士会話をしてチーム全体で盛り上げていこう、と言う雰囲気は感じます。昨季よりもミーティングを多く行って結果に繋げようと選手スタッフともに動いていますし、その意味では心配をしてはいません。ベテラン選手が増えているのは去年と違う部分なので、彼らに刺激された若い選手がこれからどれだけ奮起するか。そうすればグリッツの強さが出てくると思います」(渋谷コーチ)

熊谷「ここから下はない。もっとチャレンジを」

この状況を打破するにはやはり若い力の奮起が必要だ。東北フリーブレイズでのキャリアを経てグリッツ初年度から戦っている熊谷豪士(くまがいごうし)もそんな若手の力を引き出すべくチームの隅々に目を配っている。
「それこそ、負けが続いていたグリッツ1年目や2年目に対し、昨シーズンは勝利数を伸ばして期待していただいているという部分がある。僕がフリーブレイズにいた時にも大きな連敗を経験しました。でも、その経験を踏まえて『何か正しいことを言わなきゃ』と思ってしまう部分もありますがそこはバランスを見て勝つための雰囲気作りを進めています。ここまでの戦いをしっかり見つめ直して、ここからどう立て直すかが重要。攻撃面でも課題はあるものの、形が見えてきて、光が見えてきた気はします。逆にここから下はないので、若い選手はもっともっとチャレンジしてほしいですね」

DF菅田(一番右)も積極的に良い流れを少しでも速く取り戻したい、との思いで練習に臨んでいる

そんななかディフェンス(DF)として気迫あるプレーをここまで見せているのが菅田路莞(かんだろい)だ。北米リーグでの経験をベースにしたフィジカルとスピードが武器の若きディフェンスマンはここからの巻き返しを誓う。
「今シーズンはポイント(ゴールとアシスト)を伸ばすことを目標にプレーしてきましたがそれがまだできずチームには申し訳ないと思っています。ただ、自分のもう1つの特長である”身体を張ったプレー”でチームに流れを呼べればと今は考えています。次のレッドイーグルス北海道戦でもディフェンス、特にシュートブロックをさらに頑張らなければ。レッドイーグルスは日本代表選手も多く攻撃も分厚い。でもそれに対抗するプランはチームとして考えてあるのでそれをしっかり遂行すれば良い戦いができると思います」と語り、自身が先頭に立って相手の攻撃を止める防御壁になると誓う。
「札幌でのレッドイーグルス戦は、やはりシュートブロックがポイントになると思います。それは自分だけではなくて、守備で全員が相手の攻撃に対して忠実にニーダウンして守れるか。チーム一丸となって膝を氷の面につけるくらい身体を低くしてシュートに対して身体の正面を向けて、何をしても止めるという気迫で向かう。シュートブロックは確かに怖いです。でも勝つにはそれしかないですよね」(菅田)

移籍後初対戦となる大澤「いまは一丸となって戦いきれるかが重要」

若手の動きを見守る大澤。経験豊富な彼の存在はチームにとって重要だ

8連敗中のグリッツが10月28、29日に札幌・月寒体育館での連戦でぶつかるのが現在リーグ2位につけるレッドイーグルスだ。この強豪に対してグリッツはまだ創立以来勝ち星を挙げることができていない。
しかしその歴史を変える存在として注目されるのが今季レッドイーグルスから移籍した大澤勇斗だ。「自らの新しい可能性にチャレンジしたい」という思いでデュアルキャリアを標榜するグリッツの門を叩いた大澤は、古巣との対戦が楽しみで仕方がない様子だ。

「厳しい戦いになることは分かっていますが、『とにかく勝つ』という強い気持ちで試合には臨みたいと思います。札幌でレッドイーグルスと対戦できるのは本当に楽しみ。いまだにSNS等を通じて温かい言葉で応援していただいているファンの方には感謝していますし、今、横浜で頑張っている姿を見せたい。いつもと変わらずに一生懸命プレーして、その結果、良い形で勝利を奪い取れるように全力で頑張りたい」と大澤。そんな大澤もグリッツのここからの反撃に必要な要素を聞かれると、いの一番にあげたのはこのような言葉だった。
「厳しい結果が続いていて苦しい状況ではありますが、チームみんなで試行錯誤しながら取り組んでいます。勝つために必要なポイントはまだまだたくさんありますが、やはりチームスポーツなので選手1人ひとりが同じ方向を向いて戦うこと。それが一番重要だと思います。これまで(レッドイーグルスで)勝ってきた時もチームの一体感というモノを感じていたので、それが大前提になると思います」

インタビュー後カメラの要望に応じ、ポーズを見せてくれた大澤。札幌で彼の笑顔は見られるか?

この苦しみを乗り越えられればまたチームのステージは1段上がる。
札幌でジャイアントキリングを見せられるか? 若手&ベテランの総力を結集し強敵に挑む横浜グリッツ。その戦いぶりに注目だ。

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