横浜グリッツ・記憶に残るファーストシーズンを終えて

取材・文/今井 豊蔵  写真/アイスプレスジャパン編集部 ※大学の所属表記は試合時点のもの

1シーズンで戦えた試合数は18。大都市のチームだけにコロナ禍の影響は否めなかった

アジアリーグ・アイスホッケーは3月28日の試合をもって、2020-21シーズンの全日程を終えた。新型コロナウイルスによる渡航制限で国外チームとの試合が行えず『ジャパンカップ』として国内チームだけの試合を編成、その日程すらも2020年末からの感染拡大、緊急事態宣言の発出により全うすることができなかった。

ただでさえ難しいシーズンを、チーム創立1年目として駆け抜けたのがリーグ11年ぶりの新規加盟チーム『横浜グリッツ』だった。
18試合を戦い2勝16敗(うち延長負け1)。初年度のグリッツの残した成績だ。
ただし、この2勝は3月に予定されていたホーム横浜での試合を、ひがし北海道クレインズがコロナ感染拡大により出場辞退したための不戦勝。DF菊池秀治主将が「僕らは勝ったとは思っていません」と言うように、実質未勝利でシーズンを終えた。

菊池はキャプテンとして初年度のグリッツをまとめた。王子との最終カードの善戦は進歩の証とも言える

コロナ禍で試合数減少に苦しめられるも、来季へ向けて進化を見据える

特にコロナウイルス感染状況の深刻な首都圏をホームとしていることで、もっとも活動に制限を受けたチームとなった。
11月29日、ホーム新横浜での日光アイスバックス戦、3-3で延長に突入したものの3-4で敗れた。この「最も初勝利に近づいた日」を最後に、3月27日まで118日にわたって試合を行えなかった。浅沼芳征監督は「紅白戦や練習試合をやったりして、集中力を切らさずいつでも試合をできる態勢をつくってきたつもり」とする。

その姿勢でリンクを驚かせたのが3月27日、苫小牧に遠征しての王子戦だ。すでに優勝を決めている強豪を相手に、試合開始から主導権を握った。最初のプレーでFW平野裕志朗がパックを奪うと、そのままゴール前に持ち込み、GKを引きずってゴール。

「ゴールまでとは思ってませんけど、絶対にチームに勢いを持ってくるプレーをしようと思っていた。だからあれは狙い通りです」と平野が振り返るように、グリッツのアグレッシブなプレーに受け身を強いられたのは、むしろ順調に試合をこなしてきたはずの王子だった。
第1ピリオドをGK黒岩義博の好守もあり1ー1で乗り切ったものの、中盤以降は体力不足という課題が徐々に顔を覗かせる。結果2-5で敗れ、翌日は0-9の完敗だった。

ラトビアのチームから今季グリッツでアジアリーグに復帰した黒岩。試合を重ねるごとに安定感を増した

「グリッツはアイスホッケー界を変えて行かなければ」、平野裕志朗の決意

グリッツは選手が一般企業での勤務と、プロホッケー選手を両立させようとする『デュアルキャリア』を掲げるチームだ。当然、練習時間にも制限があり、王子イーグルスのような実業団チームと「量」では雲泥の差がある。試合の後半、連戦の後半になれば戦い抜けるだけの体力が不足するのは自明だが、浅沼監督は「練習量の差を言い訳にはしたくない」と言う。相手のいやがるプレー、いらつかせるプレーをしようとすることで対抗できる時間帯もあるものの、まだまだ短いのが現状。より長い時間遂行できるようにするには、何か新しい方策が必要だ。普段の練習から更なる進化が求められる。

平野は今季、北米3部ECHLのシンシナティ・サイクロンズと契約していたものの、コロナウイルスの感染拡大によりチームが出場辞退。年末からの渡米予定が消えた。そのままグリッツに残り、1シーズンを共にした。28日の最終戦、大敗している終盤でも、身を投げ出して相手のシュートを防ぐ「ブロックショット」に出る選手がいるなど、全力でやりきろうとする姿からチームメートの成長を感じとると同時に「やっぱり1勝もできていない。グリッツはアイスホッケー界を変えて行かなければいけないので」と勝利へのこだわりを口にする。

今季はコロナ禍に翻弄されてしまった平野。しかしアイスホッケー界発展を見据え、挑戦を続ける

”飛び級”で若い才能を育てるなど、GRITS参戦はアジアリーグの可能性を広げた

ホッケー界に影響を与えそうな変化の芽はあった。年末からチームに帯同していた学生プレーヤーが、この連戦でようやくのトップリーグデビューを飾った。FW土屋光翼(法大)は、小柄な体格ながらキレのある動きを見せ、27日に初ゴール。DF菅田路莞(中大)も28日の試合終盤、菊池主将とのDFコンビで氷上に立った。浅沼監督は「土屋が点を取って、菅田にも刺激になったようですね。あと組んだ菊池が『頑張れ、頑張れ』って声を出しているんですよ。チームみんなで育てようというところが見えたかな」と、チームが一つになっての戦いぶりには目を細める。学生からトップリーグに進もうという選手がどんどん減少している現状で、こうした飛び級でのリーグデビューは、選手の可能性を広げていくはずだ。

期待の若手、菅田(写真中)や土屋がトップリーグで経験を積めたのは今後に向けて大きい

デュアルキャリアを掲げる以上、グリッツは常に外的要因による変化も強いられる。すでに主力の中には転勤で、チームを離れることが決まっている選手もいる。「そういうことも含めて、受け入れていかなければならないのがこのチーム」と浅沼監督。迎えるリーグ2年目、そしてコロナ禍が収束した暁には、氷上でそして興業としても、進化した姿を見せてくれるに違いない。

編集部より:横浜グリッツのアジアリーグ最終戦(3/28・対王子イーグルス)後に収録した選手・監督インタビューを、4月19日20時からアイスプレスジャパンTVで公開する予定です。

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