横浜グリッツが史上初、HLアニャンから金星! 今季初勝利をあげた、その理由とは?
取材・文/アイスプレスジャパン編集部 画像/ASIA LEAGUE ICE HOCKEY JAPAN OFFICE
※画像は許可を得てアジアリーグアイスホッケーTVからキャプチャしたものを使用しています
アジアリーグアイスホッケー2023-24シーズン
11/19(日)@韓国・アニャンアイスアリーナ 観衆:719人
HLアニャン 2(1−0、1−1、0−1、0-0、0-1)3 横浜グリッツ
ゴール:【HLA】イ・チョンミン、ナム・ヒドゥ 【YGR】ラウター、三浦×2(GWS1含む)
GK:【HLA】ダルトン 【YGR】古川
シュート数:【HLA】53 【YGR】36
ついに、グリッツが、勝った。
11/19(日)、韓国・アニャンアイスアリーナで行われたHLアニャン対横浜グリッツの4回戦。
グリッツはアニャンに先制される苦しい展開も粘り強く戦い、第2ピリオド3:13にアレックス・ラウターのゴールで1-1とし試合を振り出しに戻す。
その後またアニャンにリードを許すが第3ピリオド12:35にゴール正面に詰めたDF三浦大輝(みうらだいき)がアニャンGK、マット・ダルトンが守るゴールをこじあけ再び2-2の同点に追いつく。
その後はアニャンFW陣の分厚い攻撃に対してGK古川駿(ふるかわしゅん)の渾身のセーブとDF陣の頑張りで得点を許さず、試合は延長へ。
延長でも両者得点なくゲームウィニングショット(GWS)戦に突入した試合は、両者4人目を終えた時点で2人ずつが決め同点で5人目を迎えたが、先行のアニャンはゴールならず。グリッツは最後に登場した三浦大輝がフェイントからGKダルトンを左に動かして空いた右のスペースへとパックを流し込む。
その瞬間グリッツの今シーズン初の勝利が確定。今季14試合目にしてついに手にした白星、アニャンのリンク上では白に水色のラインが入ったアウエーユニフォームを身にまとったグリッツの選手たちによる歓喜の輪が広がった。
アジアリーグアイスホッケーTVによる試合ハイライト↓
https://youtu.be/OEb0PCplOuM
チーム創設以来、ここまでHLアニャンに対して1度も勝ったことがなかったグリッツがついに手にした「歴史的1勝」。この試合について選手・スタッフの話を総合し「グリッツがアウエーの地でアニャンに勝てた理由」をひもといてみたい。選手の喜びの声をお伝えできれば幸いだ。次節の12/2、3(土日)には、グリッツがホーム新横浜で現在2位のレッドイーグルス北海道を迎え撃つ。レッドイーグルス北海道に対しては、チーム創設以来まだ勝ち星がないグリッツだがHLアニャン戦の勝利でついた勢いをもってぶつかり、ホームのファンにさらなる驚きを提供することができるか注目される。
三浦大輝が突いた”王者の隙”
GWSで三浦がゴールを決めた瞬間、60分+延長を守り切ったGK古川は「マジか!」という感じで身体のなかから湧きあがってくる心地よい感情に身を任せていたという。いっぽう三浦は「(決めた瞬間は)『やった、勝った、嬉しい』という感情よりも、ほっとした気持ちの方が大きかったです」とその時を振り返りつつも「GWSの5人目後攻での順番だったので、自分に回ってこなくても勝てればいいとは思っていたんですが、同点のシチュエーションで出番が来た。その時も緊張感などはなくて、『決めたらヒーローだからラッキー』ぐらいのメンタルで臨めたのでそれも良かったのかなとは思っています」(三浦)
DF簑島圭悟(みのしまけいご)は「感情を爆発させて喜ぶっていうよりは、心の中で噛みしめるような感じというか。そこまで無心でプレーをできていたと思いますのでそんな感懐でした。チームのみんなも勝った瞬間は喜びすぎるような様子もなくて、なんか不思議な感じでした」とその瞬間の思いを正直に語ってくれた。
浅沼芳征(あさぬまよしゆき)監督はこの試合の前日、2-7で敗れた試合ではあったがチーム力向上の手応えを充分に感じていた、という。
「前日土曜日の試合でもGK古川を先発させたが非常に良いプレーを見せてくれ、最終的に7失点という結果でしたが内容は決して悪くなかった。ディフェンス(DF)もHLアニャンの攻めに対して非常に粘り強く対応してくれ、とくに濱島尚人(はましまなおと)のいるサードラインが本当によく守ってくれた。濱島のラインはそれだけでも充分な働きをしてくれているのに、さらに濱島自身が得点を奪ってくれるなど嬉しいサプライズも起こしてくれた」と勝利へ向けての流れが徐々につかめていた、と振り返る。
「日曜の試合では“全員で我慢して我慢して戦って勝機を見いだそう”というゲームプランに持ち込むことができた。ロースコアの展開に相手を嵌めることができ、試合中にも『ペナルティキリング(PK)を守り切ることができたら点が取れるぞ』と選手を鼓舞していたところ、ラウターがその通りに点を奪ってくれてあれでチームの気持ちが一気に上がった。三浦の同点ゴールはDFでありながらも彼の得点センスがとても光った瞬間だった。アニャンのパワープレー(PP)をしっかり抑えられたというのも大きな勝利への要因だった」(浅沼監督)
三浦は同点ゴールの瞬間について問われると「パックのあるサイドにアニャンの守備の選手が人数を集めていたのは見えていて。DFの自分に対して相手守備が『さすがに攻めてこないだろう』といった感じでパック側に寄って行ったのが見えたので、そのままゴール前にスッと入って。あとは茂木選手からのパスを入れるだけでした」と振り返り、またこうも付け加えた。
「普通でいったらディフェンスマンはあそこまでゴール前に入リ込まないので。アニャン側がマークをちょっと怠っていたというか、甘かった部分があるというのは試合中も感じていて、そこを上手く突けたと思います」(三浦)
「チームに経験値が貯まってきた」(簑島)「最少失点に抑える方法が見えた」(菅田)
DFの菅田路莞(かんだろい)は「失点を減らす、最少失点で乗り切る、ということが勝つことには絶対に必要だという意識はチーム全員が共有していました。個人的には守りの時にドットよりボード際に寄ってしまうクセがあるので、常に内側のゾーンを守るように、ということを改めて徹底して臨みました」と守りからリズムを作り出せたことが勝利への大きなポイントだったと話してくれた。
菅田は前日の試合からDF陣がしっかりプラン通りに守れていることは体感していた、という。その流れをさらに強化して臨めたことが日曜日の試合で53本のシュートを浴びながらわずか2点にアニャンの得点を抑えられた要因だとも付け加える。
いっぽう簑島はアニャンに勝てた要因について、『経験値』が選手それぞれに蓄積されてきたことが大きいと指摘する。
「グリッツのチームワークでの経験値が貯まってきたな、という実感があります。前日2-7で敗れた直後もみんな『内容は本当に悪くない、いけるよ』と口々に言っていて。みんながとても身体を張って守ってくれ、ここまではそんな展開だと第3ピリオドのどこかで失点して負けてしまっていたのですが、それに関しても日曜のアニャン戦ではみんなものすごく集中してくれて最後まで守り切れたと思います」(簑島)
レッドイーグルス戦、そして“ホーム“の全日本選手権でサプライズを起こす
新しい時代への扉はいつも静かに開かれる。今回、アウエーの地でグリッツが王者アニャンに勝ったことは数年後、ターニングポイントだったと振り返るときが訪れるかもしれない。かつてアニャンハルラ(HLアニャンの前身)がコクドや王子製紙に勝った時のように。
「この勢いで、と言いたいところだが日程的に試合間隔が空いてしまうので、そこは念頭に置いて調整したい。選手たちもこれで強豪に勝てるやり方と勝てる雰囲気を体感したので、次のレッドイーグルス北海道とのホーム戦はまた良い試合が見せられるものと私自身期待している。勝ちは勝ちだが今回はGWS勝ち。次の勝利はしっかりと60分で勝ちきるところをお見せしたい」と浅沼監督は冷静な口調ながらここからの反転攻勢を強く誓った。
簑島も「12/2、3のレッドイーグルス戦。どんどん内容も良くなっているなかで、あとは結果を出すだけだと思うので、ここまで勝てていないレッドイーグルスに対しても全力で勝ちに行きます。それから、翌週の全日本選手権も初のベスト4に行きます。横浜グリッツはまだまだ到達してないポイントというか目標が数多くあるので、ファンのみなさんと一緒にそこをどんどんクリアしていくミッションは本当に楽しみなので、ぜひ応援してもらえればと思います」と勝利への意欲をより一層強くしていた。
最後にゴールを死守した古川のコメントを紹介しよう。
「惜しい試合が続いていて『やっと勝てた』というのが率直な気持ちです。個人的にもアニャンに対してはフリーブレイズ時代から勝つことの難しかった相手だったので、この勝利は心から嬉しいです」
この勝利がもたらす自信が流れを変えるか? 12/2、3のレッドイーグルス北海道との対戦が実に楽しみとなってきた。