横浜グリッツ、3人の“新戦力”が引き寄せた開幕戦の劇勝
久慈修平が絶叫「勝つために来ました」

今季グリッツの開幕を告げるゴールは久慈が決めた

取材・文・写真/今井豊蔵

アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
9月7日(土) レギュラーシーズン開幕戦@KOSÉ新横浜スケートセンター

横浜グリッツ 2(1-0、1-0、0-0)0 東北フリーブレイズ
ゴール:【グリッツ】久慈、池田 【フリーブレイズ】なし
GK:【グリッツ】冨田 【フリーブレイズ】伊藤
シュート数:【グリッツ】35(19、9、7) 【フリーブレイズ】38(9、10、19)

役者が違った…37歳の移籍“1年目”が叩き出した先制点

パワープレーから久慈は強烈なシュートを放った

「初めまして。背番号1番、久慈修平です。勝つために横浜に来ました」

 開幕戦勝利後、恒例のヒーローインタビュー。マイクを渡された37歳はそう絶叫し、スタンドから大きな拍手を受けた。昨季まで所属したレッドイーグルスでは聞けなかった、感情をむき出しにした言葉に久慈は「あそこは勢いのまま行かなきゃダメでしょう」と照れ笑いだ。トップリーグ参戦5年目の横浜グリッツは、新しい力の活躍で最高のスタートを切った。

 第1ピリオド中盤に得たパワープレーのチャンス。グリッツは敵陣でセットし、パックを動かしながら機会をうかがった。そして11分58秒、久慈はこちらも新加入のDF松金健太からのパスを叩き、GKの肩口を抜いた。キム・ギソン(元HLアニャン)を抜き、アジアリーグ単独5位となる通算207点目は、生まれ変わろうとしているチームが待望していた先制点。何事かを叫んだ久慈は、指を1本立てて新天地での初ゴールを喜んだ。

「ワンタイムを狙っていたので。こういう勢いを持ってくるのを大事にしてやりたい。そのために来たと思っていますから」

守りの主役と攻めの主役。新戦力が活躍し横浜グリッツは開幕戦で素晴らしいスタートを切った

 守りの主役は、ルーキーGKの冨田開だ。38セーブのシャットアウトで大胆な起用に応えた。「チームに入ったからには、開幕戦に先発で出るつもりでやってきた。プレーヤーもいい守備を見せてくれたし、タイトな試合を勝ち切れたのは本当に大きい」。早稲田実業高を中途退学し、米国のジュニアリーグや大学で7年間プレー。北米でプロになるという希望かなわず帰国した。今年5月に大学を卒業し、就活中の身。まずは氷上の再スタートで、大きな成果を残してみせた。

アジアリーグデビュー戦先発起用の抜擢に、冨田開は完封という満点回答で応えた

 岩本裕司ヘッドコーチは、試合の4日ほど前に冨田の開幕起用を決めた。4試合のプレシーズンマッチを戦う中で、3人のGKの調子を見極めた。韓国・延世大との試合で先発し1失点でしのいだ冨田の、キャッチングのうまさを買ったという。ただ、このリーグではまだ1試合も戦ったことがない選手だ。「不安ももちろんありましたよ。でもここは信じるしかないと思って、賭けたんです」(岩本HC)。ベンチの打った“博打”は、大きなリターンとなって返ってきた。

 冨田は初めて触れたアジアリーグを「ハイテンポな試合で、レベルが高くて楽しかった」と振り返る。序盤はアクションの大きなセーブでファンを沸かせた。そしてゴール前でパックに触り、角度を変えようとしてくるフリーブレイズのシュートにも、戦ううちに良い反応を見せるようになっていった。古川駿を中心とした起用が見込まれていたGKのポジション争いに、いきなり新風を吹かせた。

「レベルが高くて楽しかった」冨田は試合が進むにつれてさらに好プレーを連発

選手だけではない“新戦力”。岩本ヘッドコーチが目指すチームとは

 大胆な采配でチームに勢いを呼んだ岩本コーチも“新戦力”だ。かつて日本リーグの雪印を選手兼任監督として率い、アイスバックスや日本代表でも監督を務めた。今年3月に代表コーチを退くと、すぐにグリッツから誘いがあった。

 代表監督時代も、選手の視察で新横浜を訪れることは多かった。他のチームと違い、デュアルキャリアを前提とするグリッツを強くするのは「なかなか大変だろうな」と思っていた。ただ、甥で主将のFW岩本和真にも「来てもらえたら本当に助かる」と背中を押され、再びアジアリーグのベンチに立つ。

 今回のグリッツでも「土台作りかな」という。決して、強いチームを率いてきたわけではない。日本代表を“再建”した経験も生きるはずだ。代表監督に就任したのは2017年。平昌五輪の予選で敗れたチームには、ひたすら引いて守り、カウンターで得点を狙う戦術が染み付いていた。世界選手権のディビジョン1A(2部相当)から何とか落ちないようにするためだったが、下のディビジョンに落ちた時、試合に勝ち切ることができなくなっていた。

 グリッツも同じだ。これまではリーグですでに実績あるチームに対し、心身ともに一歩引いてしまうことがあった。そこで岩本コーチが目指す姿はシンプルだ。

「新横浜にはすごく可能性がある。首都圏のホッケーファンをつかむためにも、点数を取りに行くホッケーをしたい。取られてもいいから……。とは言いませんけど、引くんじゃなくて前から前からプレッシャーをかけるホッケーをしようと思っています」

 選手には具体的な指令を出している。32試合のアジアリーグで、全員が“昨年より32本多い”シュートを打とうというのだ。「去年のグリッツはシュートが一番少ない。100本打ったのがラウターしかいないんです。チャンスではパスじゃなく、シュート。日本の選手はジュニア時代からパスがクセになっているので、何とかしたい」。この日、第1ピリオドは19本のシュートでフリーブレイズを圧倒した。岩本コーチは「意識はしてくれているのかな」と笑う。

グリッツに来ても変わらず最後はリンクに一礼。背番号「1」久慈修平の今後に目が離せない

 ただ、狙いからすれば「もっと点数を入れるチャンスはあった」とも。久慈も「今日で終わりじゃないので。でもこの勝利がみんなの自信になればと思います。今までどう自信を重ねていくか、迷っていたと思うので」。自信を重ねながら、変わっていくはずのグリッツ。ファンにもその第一歩を、強烈に印象づけた。

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