デュアルキャリアを“やり切る”男、松渕雄太が決めたアピール弾
■11月6日(土) 会場:KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 1(0-0、1-1、0-2)3 レッドイーグルス北海道
取材・文・写真/今井豊蔵
この日、一番のプレッシャーを感じていたはずの男がゴールを決めた。
1点を追う第2ピリオド17分、グリッツのFW松渕雄太は同点のゴールを叩き込み、派手なガッツポーズを見せた。
「上司の前で大敗してはいけないとか、試合前はいろいろ考えてしまうこともあったんですが、始まってからはとにかく楽しもうと切り替えた。1点取ることができてホッとしていますけど、やっぱり勝つところを見せたかったですね」
グリッツは選手がしっかりと仕事をこなしたうえでアイスホッケー選手としても活動する「デュアルキャリア」を掲げるチーム。
松渕は医薬品大手の(株)ツムラで営業をこなす。この日は勤務先の上司、同僚らの“応援団”が来場、さらに入場したファンにも同社製品が配布された。ツムラをアピールし、勤務先に大きな“価値”を感じてもらうためには、自身の活躍がどうしても必要だった。
松渕の職場では、会議などで定期的に松渕の選手としての活動が報告されるという。
ただ、練習、仕事、試合の繰り返しで、コンディションを整えるのは容易ではない。
「筋力をつけようとしても正直大変ですけど、毎日『少しでも』やると決めてます。悔しかったことを思い出して、あんな思いはしたくないと自分を鼓舞するようにしています」(松渕)。
仕事もプレーも、それぞれ100%こなすのがグリッツのスタイルだ。これで、ジャパンカップではチームトップの5得点。さらに仕事でも目標の数値を達成し続けているという。
試合は、この松渕のゴールで1-1の振り出しに戻った。レッドイーグルスに圧倒的にパックを持たれる中で、耐えに耐えた。
シュート数はグリッツの11本に対し、レッドイーグルスは実に64本。
しっかりコミュニケーションをとって、5人がコンパクトに守った。さらにGK黒岩義博も好セーブを連発し、レッドイーグルスの攻撃を“単発”に抑えていった。
今季まだ1敗しかしていない強豪相手に、リーグ参戦2年目のグリッツが一泡吹かせるのか。
そんな期待も高まった第3ピリオド、開始早々の15秒にFW久慈修平のゴールでリードを許し、11分14秒にはFW彦坂優のゴールで突き放された。
松渕は「第3ピリオドが始まる前までは、自分たちのホッケーをできていた。やっぱり(ピリオド)最初の5分と最後の5分は大事ですね……」と悔しがる。
逆に言えば、悔しさを感じる展開だった。1-3で敗れはしたものの、昨季は開幕戦で12失点を喫した相手との緊迫感溢れる試合は、進化の跡に他ならない。
10月30日のフリーブレイズ戦で、待望の公式戦初勝利を挙げた。今度はホームでの初白星が期待される中で、安定した試合運びを見せた。
浅沼芳征監督は「1勝したことで、やってきたホッケーが通用するというか、60分やり続けられれば戦えるとチームの中でわかって来たのではないか」と“落ち着き”が生まれた理由を指摘する。
10月のアイスバックス戦で、大量失点を繰り返していたころの姿は、もはやない。
松渕も「1勝までが本当に遠かったんですけど、それからはシステム的に守り重視にしたこともありますし、コミュニケーションをしっかり取ることで、ものすごく攻められても我慢できる」と初勝利後の変化を口にする。どんな相手にも臆さず、戦い抜く準備はできている。