【Game5レポート】歴史に残る激闘。わずかな差で栄冠はHLアニャンに

プレーオフMVPは決勝OTゴールを決めたカン・ユンソク。

セカンドオーバータイム10分13秒、ゴール正面からカン・ユンソクがパックを押し込み決勝弾

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部


アジアリーグアイスホッケー プレーオフファイナルGame5
3/26(日)@アニャンアイスアリーナ
HLアニャン 2(1-0、0-1、0-0、0-0、1-0)1 レッドイーグルス北海道
ファイナル対戦成績 3勝2敗でHLアニャンが優勝

アジアリーグアイスホッケー プレーオフファイナル第5戦が韓国・HLアニャンのホーム・アニャンアイスアリーナで行われ、HLアニャンがセカンドオーバータイムにもつれ込む激しい試合を2-1で制し優勝。前身のアニャンハルラ時代と合わせアジアリーグでは7回目(※)となるチャンピオントロフィーを獲得した。
※うち2回はプレーオフ中止のため同率での優勝

劇的な優勝を喜ぶHLアニャンのメンバー

前日のGame4が終わった段階で2勝2敗となり、この日勝った方が優勝という状況で迎えた試合は序盤から白熱。第1ピリオド4分00秒に1人少ないショートハンドのピンチだったHLアニャンのキム・ギソンがカウンターで持ち上がる逆襲で先制。

一方、先制されたレッドイーグルス北海道も第2ピリオド終了1秒前となる19分59秒に橋本僚キャプテンがゴールネットを揺らし同点に追いつくとさらに試合はヒートアップ。
その後はお互いに何度もゴールに迫りながらも得点を奪うには至らず、試合はゴールデンゴール方式のオーバータイムに突入。
ファーストオーバータイムではレッドイーグルスがパワープレーの好機を、またHLアニャンがペナルティーショットで一気に試合を決めるチャンスを手にしたものの、アニャンはマット・ダルトン、レッドイーグルスは成澤優太の両ゴールキーパーが獅子奮迅のゴールテンディングを見せ得点を許さず。20分間のファーストオーバータイムでは決着がつかず、試合はセカンドオーバータイムに突入する。

会場のボルテージは沸点を超え、ものすごい歓声がリンクに充満するなか試合は永遠に続くかとすら錯覚させられるほどだったが、セカンドオーバータイムの10分13秒、HLアニャンがアタッキングゾーンでパスを繋ぎ、最後はゴール正面にいたカン・ユンソクがパックをゴールネットへ。

その瞬間、花火のような轟音とともに銀色のテープがリンクに打ちあげられ、HLアニャンのホーム、アニャンアイスアリーナに詰めかけたHLアニャンのファンが優勝の喜びに打ち震えた。

2003-04シーズンのアジアリーグ初年度からの歴史の中でも3本の指に入る、あるいはナンバーワンとも言っていい試合内容、決着の仕方は日韓のアイスホッケー界の歴史に残ることは間違いない。アイスホッケーという競技のスリリングさ、スピード感、そして魅力がふんだんにつまった濃密な90分超の激闘だった。

攻め込むレッドイーグルスに落とし穴。ショートハンドで先制許す

試合開始のシーン。まさに歴史的な死闘となった

「ディフェンシブに戦いロースコアに抑える」。負ければ一気に窮地に追い込まれるプレーオフの戦いでは、戦術的にも守りを固めて相手のスキをうかがうスタイルが常套手段だ。
しかし、それだけでは勝ち切ることができないということも過去の試合が証明している。シリーズのどこかで”勝負手を打ち”白星を自ら奪いに行かなければチャンピオンという称号を得ることはかなわない。レッドイーグルスにとっては、この試合の第1ピリオド序盤がその時だった。

レッドイーグルスは序盤から主導権を握り攻勢に出たが…

前日のGame4では、試合序盤に橋本キャプテンがあげた1点を守り切ってシリーズを2勝2敗のタイに戻したレッドイーグルス。
個の力に勝るHLアニャン攻撃陣を封じるため菅原宣宏監督がとった手は「HLアニャンが攻めだそうと形を作るところからプレッシャーをかけていく」という判断だった。この作戦がしっかりと機能したことでGame4では危険なシュートを打たせず、見事な完封勝ちに繋げた。

その戦術にかなりの程度手ごたえを感じていたのであろう。この日も菅原監督は「基本的には前日と変えず、その試合で見つかった注意点を選手たちには伝えた」とその戦術に昨日の反省点を加味して微修正を施し、この試合に臨んでいた。

迎えたGame5。さっそくその策が功を奏す。
レッドイーグルスは第1ピリオドから押し気味に試合を進めると2分13秒に分厚い攻撃を仕掛けアニャンのディレイオブザゲームのペナルティーを誘いだす。その直後のパワープレーでも完全に優位にパックを支配し、何度もダルトンの守るHLアニャン側のゴールにシュートの雨を降らせた。Game4と同様に序盤に点を奪って優位に立ち、堅い守りで逃げ切る。そのシナリオが功を奏す、そんな風にも思えた。

しかし、HLアニャンは1人の選手がそんなレッドイーグルスの思惑をぶち壊した。
韓国人選手としてアジアリーグ200得点の大台に初めて到達したアニャンのエース、キム・ギソンだった。

攻め続けるレッドイーグルスのゴール裏からのパスがブルーライン付近に流れたところで一気に加速。パックをかっさらうとそのまま縦に突進。GKとは2対1の状況になったがキム・ギソンは横パスではなくシュートを打ち込むことを選択した。

ゴールを決める直前のキム・ギソン。ここから鋭い嗅覚で一気に抜け出した
先制点に喜ぶHLアニャンのメンバー

このプレーがHLアニャンにとってはファーストシュート。守るGK成澤優太も「キム・ギソンがパックを一度自分の身体側に引いたので、グラブサイド(シューターから見て右サイド)のシュートを読んで対応した。しかし、その読みとは違いブロッカーサイドのほうにシュートを打ってきた。相手が1枚上手だったと言うしかない」と悔やむ一撃。ともに経験豊富な韓国代表の点取り屋と日本の守護神とのハイレベルな一騎打ちはキム・ギソンに軍配があがる。
このキム・ギソンのショートハンドゴールでレッドイーグルスは攻勢から急転、1点のビハインドを追いかける立場に追い込まれた。

ラスト1秒弾でレッドイーグルスが追いつく。橋本僚がこの日も決めた

第2ピリオドに入ってもレッドイーグルスにとって一度傾いたペースはなかなか戻らず、良いシュートを放ってもセーブされる展開が続く。レッドイーグルスとしては相手の攻撃を耐え忍び一瞬のチャンスをものにするしかないという流れ。残り5分を切ったところで高橋聖二が1人で抜け出してシュートを放つビッグチャンスを迎えるもGKダルトンがセーブ。残り2分には相木隼斗がスピードに乗ってゴールまで迫るがあとわずかのところでDFにブロックされる。

相木隼斗が突進し、あとわずかのところまで迫るがゴールとはならず


流れは依然としてアニャンペース。レッドイーグルスは我慢を第2ピリオドが終わる直前まで強いられる。しかし終了直前の同点弾は鮮やかで、その我慢が実を結んだ瞬間だった。

橋本の同点弾の瞬間。GKの右サイドをパックが突き抜けて…
その瞬間時計は1秒残っていた

「時計を見たら残りが7秒。ここはリスクを背負って勝負に出ていい場面」と判断した橋本キャプテンが左サイドからゴール正面へするすると入り込み、左コーナーの髙木健太とのパスの間合いを図る。そしてゴール前で相手DFと中屋敷侑史が競り合うなか、DF間の隙間があいた絶妙なタイミングでパスを受け取った橋本がゴール左20度の位置からスティックを一閃。
「コースだけは外さないように」(橋本)と狙いすましたシュートはGKダルトンのブロッカーサイドを突き抜けサイドネットへ。このゴールでレッドイーグルスが第2ピリオドのうちに同点に追いつく。

ゴール直後、橋本キャプテンはこのガッツポーズ

橋本自身も「1点を追う状況で第3ピリオドに入っていたら、無理をしてでも行かなければならない。そういう意味では、あのゴールでその後接戦に持ち込めたと思う」と振り返る価値あるゴールでレッドイーグルスが1-1と試合を振り出しに戻した。

濃密な攻防はいつ終わるとも知れない死闘へ

1点が非常に重いシチュエーションとなった第3ピリオド。追いついたレッドイーグルスは攻めを厚くするという戦術を控えめにし、ここまでやってきたディフェンシブな戦いに戻して一瞬のスキを突くというスタイルに賭けた様子がうかがえた。第3ピリオドはお互いに攻めあうもののゴールは生まれず。試合はこのシリーズで初となる延長戦、オーバータイムの戦いに持ち込まれた。

セカンドオーバータイムに突入。どちらが決めてもおかしくない戦いはついに…

アジアリーグアイスホッケーの規定では、レギュラーシーズンとは延長戦の形が変わり、通常の試合と同様にプレーヤーは5人対5人、時間は20分のフルタイムでどちらかが先に点を取るまでというレギュレーションになっている。しかし、過去にもオーバータイムでは案外と早い時間帯で決着がつくケースも多かった。

そのファーストオーバータイム、先に窮地に追い込まれたのはHLアニャンだった。
1分1秒、DFのソン・ヒョンチョルがディフェンディングゾーンからパックを直接場外に出してしまい、ディレイオブザゲームのペナルティーを宣告される。ペナルティーボックスに入る彼の表情はまさに蒼白と言ってもいい状況。ボックス内では祈りをささげるような仕草も見られた2分間。

オーバータイムに入ってすぐ、パックのコントロールミスを悔やむソン・ヒョンチョル

この好機にレッドイーグルスは分厚い攻撃に出てシュートをダルトンに浴びせる。しかし、ダルトンも動じずそのシュートを捌き、譲らない。オーバータイム早めに決着するのではという予想は、両チームの必死の、堅い守りのまえにあっさりと覆される。

さらにそのショートハンド。守っているHLアニャンにビッグチャンスがもたらされたのは2分5秒。シン・サンウがカウンターからスピードに乗ってパックをレッドイーグルスのゴール前へ運ぶ決定的チャンスに。ここでたまらず橋本がスティックを伸ばしてブロック。しかし、このぎりぎりのプレーがトリッピングのペナルティーとなり、レフェリーは「ペナルティーショット」のシグナルを示した。

このプレーでペナルティーショットに

アニャンアイスアリーナに詰めかけたファンはもう完全に沸騰。悲鳴にも似た歓声がリンクに満ちあふれるなか、ペナルティーショットに挑んだのは倒されたシン・サンウ。

ゴール左からパックを持ち込み、GK成澤の右サイド足元へパックをスライドシュートで滑らせて押し込もうとする。しかし成澤がこのパックに瞬時に対応。「ノーゴール」の判定に会場は落胆の声がこだまする。

成澤がペナルティーショットを止めた

両チームが繰り広げる濃密な攻防はまさにアジア最高峰。アイスホッケーを見る者にとってはこんな時間に立ち会えた幸運をかみしめるほかなかった。

序盤の失点から立ち直り素晴らしい守りを見せた成澤

ついに決着へ。運命を分けた1本のシュート

激戦となり、まだまだ何ピリオドも続くかに思えたこのプレーオフファイナルGame5。しかしセカンドオーバータイムに入り試合時間が80分を超えたころ、実は終焉への序曲が奏でられ始めていたようにも思う。

わずかずつではあるがレッドイーグルスの選手たちの縦への動きが鈍り始め、Hlアニャンが良い形で攻め込む機会が増えてくるように。
前日のGame4 からレッドイーグルスはオンアイスの選手を絞り、HLアニャンの攻勢に対抗していた。3セットで回すという菅原監督のその作戦はここまで功を奏していたが、きっちり4セットで20人のメンバーをまんべんなく使ってくるアニャンとの体力差がじわじわと広がってくる。

そんな中でも必死に戦うレッドイーグルスが勝利に限りなく近づいたのが、4分過ぎに訪れたビッグチャンス。レッドイーグルスは中島彰吾がゴール正面からシュート。しかしこのシュートが惜しくも左のゴールポストに阻まれる。ポストに当たったパックが内に弾けるか、外に跳ね返されるか。このわずかな差がその後の両者の命運を分けたのは神様のいたずらか。

セカンドオーバータイム、体力的にも精神的にも厳しい状況でもレッドイーグルスの選手たちはしっかりと守りぬいてアニャンに得点を与えていなかったが、ついに決着の瞬間が訪れた。

右サイドのDFオ・インギョから左サイドへ大きくリンクを横切るパス。それをワンタッチでキム・サンウクが柔らかくゴール前へ戻すと、ゴール正面にはカン・ユンソクが待ち構えていた。GK成澤が左に振られたために大きく開いたゴールマウス。そこへパックを流し込むカン・ユンソク。その直後に響き渡る地鳴りのような歓声。

決着の瞬間

アジアリーグの歴史に残る死闘はこのような形で幕を閉じた。

激闘を終えて……。世界と戦い抜ける選手を輩出できるリーグへ

間違いなく最高の試合内容でシーズン最後の試合を終えた両チーム選手の思いはいかばかりか。喜ぶアニャンの選手を見ながら、レッドイーグルスの選手は本当に悔しそうな表情を見せながらも、それでいて、全力で戦い抜いた、出し切ったという思いも垣間見えた。


国際リーグであることの是非が議論されることもあるが、HLアニャンという強いチームがアジアリーグに戻ってきたことで今季、明らかに試合全体のレベルは上がった感がある。その最高峰がこのGame5だったようにも思う。

願わくば来季もこの試合以上の戦いがアジアリーグで繰り広げられることを。
アジアリーグ20年近くの歴史の中でも間違いなくトップに位置づけられる激戦を繰り広げたHLアニャン、そしてレッドイーグルス北海道の選手たちに大きな拍手を送りたい。


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