「ホッケーを自分の武器にして…」
グリッツ新加入の松金健太が挑む2つの“異世界”豪州リーグとデュアルキャリア

今季から横浜グリッツに加入した松金選手。早くも加入効果でチームのディフェンスに進化をもたらしている

取材・文・写真/今井豊蔵

アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
9月28日(土) レギュラーシーズン@神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンター

横浜グリッツ 6(3-1、2-1、1-0)2 栃木日光アイスバックス
ゴール:【グリッツ】久慈、岩本、泉、ラウター、大澤、池田 【アイスバックス】寺尾、鈴木
GK:【グリッツ】冨田 【バックス】福藤
シュート数:【グリッツ】38(12、13、13) 【アイスバックス】35(10、8、17)

アイスバックスとの初戦を快勝、昨季までのもろさを払拭

 トップリーグ参戦5季目となる横浜グリッツは、開幕戦でフリーブレイズに快勝。ただその後は3連敗を喫した。新型コロナ禍前の2019-20シーズンから、プレーオフ3連覇中のHLアニャンには敵地で連敗。ただ2-4、3-4と、終盤まで勝負をかけられる状況で試合を進めることができた。

 浅沼芳征(あさぬま よしゆき)監督は「アニャンでの2敗がいい反省として生きているのではないか。負けた悔しさはもちろんありますが、アニャンに火をつけた、本気にさせることができた」という。チーム力は間違いなく向上しているという自信のもとに、アイスバックスとの今季初対戦を迎えた。

 第1ピリオド3分12秒にFW寺尾勇利(てらお ゆうり)のゴールでアイスバックスに先制を許したものの、グリッツは6分46秒にはFW久慈修平(くじ しゅうへい)のゴールで追いつく。「(得点の)ニオイがしました」(久慈)という位置どり。パスを受けるとGKに背を向けながらバックハンドでゴールにパックを放り込んだ。その後もFW岩本和真(いわもと かずま)、FW泉翔馬(いずみ しょうま)と立て続けに得点を奪い、リードを広げた。

 昨季までとの違いが現れたのはここからだ。昨季までは流れをつかみかけた場面での失点が目立ったチームが、堅実なゲーム運びで着々とリードを広げた。1対1のバトルの強さ、そこからパックがこぼれた時のサポートの速さも目を見張るほどだった。アイスバックスにパックを渡さず、ゲームを支配した。

グリッツでは蓑島選手とDFのコンビを組む。

 今季のチームで守りのキーマンとなっているのが、開幕直前に加入したDF松金健太(まつかね けんた)だ。クレインズからワイルズ、さらにこの夏は豪州のリーグでもプレーし、この日30歳の誕生日を迎えた。夏のシーズン終了と共に帰国し、グリッツと共に新たなシーズンへ。敵として見ていたグリッツの印象をこう口にする。

「スピードのある選手は多いんです。だから勢いに乗せたら嫌な相手でしたけど、ちょっとプレッシャーをかけると崩れたりとか、もろさもありましたね」

 相手にしていたからこそわかる変化がある。グリッツ進化の要因は今季新加入した岩本裕司ヘッドコーチにあるのでは、と松金はいう。「やろうとしているホッケーがガラッと変わった。簡単にパックを離さないことにトライしているので、相手に与えるチャンスが大きく減っていると思います」。

制度変更が開いた豪州リーグへの道、デュアルキャリアに活きる経験

 開幕直前のグリッツ合流となったが、夏も豪州でシーズンを戦っていただけに心身のコンディションはトップに近いところまで仕上がっていた。チームのシステムにも「クレインズやワイルズでやっていたのと似たところがあるので、入りやすかったですよ。むしろ昨年もグリッツにいた選手の方が難しかったかもしれません」とすぐに適応した。クレインズ時代にラインを組んだことのあるDF蓑島圭悟(みのしま けいご)とのコンビで、あっという間にチームの柱となった。

 ここで注目すべきは、本来ならオフの夏季も真剣勝負に身を置いていたという点だ。プロ野球なら日本のオフも中南米や豪州、台湾でウインターリーグが行われており、選手が腕を磨きに行ける環境がある。ただアイスホッケーでは季節が逆となる南半球に強国がないこともあり、これまで適したリーグが存在しなかった。ただ今季から豪州リーグでは、アジアの選手を受け入れやすくする制度改革に踏み切った。

 北米から選手を獲得する場合よりも、チームのサラリーキャップを消費しないようにしたのだ。そのため松金のほかにも、昨季までグリッツにいたGK石田龍之進(いしだ たつのしん/現在は北米FPHLコロンバス)やレッドイーグルス北海道でプレーしたFW彦坂優(ひこさか ゆう)、またレッドイーグルスで引退を表明した後に井上光明(いのうえ みつあき/現在は日ア連GKコーチ)さんが現役復帰して参戦。それぞれのチームで活躍した。

「ホッケーをやっているのは、僕の中でとても楽しい時間」豪州でのプレーを経てますますそのプレーには磨きがかかっている

 1年のうちに、2つのシーズンをプレーする影響はまだわからない。体力的な影響が出てくるとすればこれからだというが、松金は「若い選手は特に、行ってみればいいと思いますよ。ホッケーだけじゃなく本当にいい経験になる。人との出会いも、外国で暮らすこと自体もそう。ホッケーを自分の武器にしてチャレンジできるんです。逆に豪州の有望な選手もこっちに来られればいいのにと思います」と今後の人的交流をイメージしている。現状ではアジアリーグの方がレベルが高く、特にプレースピードには大きな違いがある。それでも外に出ることでしか、得られないものがある。

 さらに、帰国後もデュアルキャリアという新たなチャレンジの真っ最中だ。ワイシャツへの並々ならぬこだわりで知られる「メーカーズシャツ鎌倉」に入社し、すでに店頭で販売業務についている。アパレルには趣味として興味があったが、実際に業界入りしてみると「とてもとても。好きだなんて言えないレベルです。日々勉強ですね」と苦笑いだ。外国人の接客をすることもあり、豪州で磨いた英語も活かせる。「縁に恵まれ、ありがたい限りです。これまで社会人経験がほぼなかったので、ホッケー選手以外に履歴書に書けることもできますし」。もう1人の自分もレベルアップを図る。

「ホッケーをやっているのは、僕の中でとても楽しい時間なんです。仕事も運良く興味のある分野で見つけることができた。今はできるだけ長く、ここでプレーしたいと思っています」と松金。始まったばかりの挑戦も、軽やかに乗りこなしていく。

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