「チームに謝られるGKではいけない」
グリッツ新人GK石田龍之進が本拠地デビューで語った「心意気」
取材・文・写真/今井豊蔵
アジアリーグアイスホッケー 1/22(日)@KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 1(0−1、0−4、1−0)5 HLアニャン
1月22日、新横浜に首位のHLアニャンを迎えた試合で、横浜グリッツは思い切った策に出た。初戦を1−9と大敗した2戦目、先発GKにルーキーの石田龍之進を起用したのだ。アジアリーグへの出場は3試合目。本拠地では初出場、初先発となる。浅沼芳征監督は前日夜に先発を伝えたと明かし、その狙いを「今日は本当に大事なゲーム。緊張感を持つことも含めて、チーム全体で石田を『守ってやらなきゃ』と思ってもらいたかった。ゲームチェンジャーになって欲しいと送り出しました」と口にした。
ルーキーGK石田龍之進を首位・アニャンにぶつけた理由とは?
石田は昨年12月3日、日光で行われたアイスバックス 戦が初出場だった。第2ピリオド10分30秒から試合に入りアジアリーグにデビューすると、翌日は先発し60分間フルに守った。「初出場は急に言われたこともあって、緊張とかはなく勢いでいけたんですけど、今回は相手が韓国の強豪ということもあって、いろいろ思うこと、考えることが多くて。1ピリの最初は緊張していた感じでしたね」。
アニャンも実力通りのプレーを見せた。第一ピリオド2分、平昌五輪にも出場しているFWシン・サンウは左サイドからゴール裏に回り込むと、石田の背中を狙ってパックを打った。肩に当たって跳ね返り、そのままゴールの中へ。高いスキルを見せつけられ、前日と同じく序盤から追いかける展開となった。
「そう打ってくる可能性はあると思っていました。アジアリーグではどこにパックがあっても、一つのパス、一つのショットでチャンスが生まれる。ひと息つく時間が本当にないのが、学生との違いだと感じています。学生の時はリラックスして周りを見回す時間もあったのですが……」
ただ「洗礼」を受けた後はチームでよく守った。石田の背中を全員でプッシュするという器用の狙いは当たっていた。第1ピリオドのシュート数はアニャンの9本に対しグリッツが8本。0−1のままで終えたのだ。しかし第2ピリオドに4失点し、大勢は決した。うち2点は反則で選手が少ない状況だった。3人対5人の状況から、キッチリ2点取られた。浅沼監督も「やっぱりいらない反則ですよね…」と振り返り、パックをリンク外に出してしまったり、敵陣内での反則を悔いる。
第2ピリオド、反則連発で大量失点も「ミスをそのまま終わらせないのがGKの仕事」
第2ピリオドが運命を分けたという認識はチームに共通していたが、石田の受け止め方は少し違った。「チームからはペナルティが原因で、(GK以外の)プレーヤーが改善できることが多かったという話をしてくれたのですが、僕はプレーヤーがミスをした時に、そのままの結果で終わらせないのがGKの仕事だと思っています。他の選手に謝られるようではいけない。チームに『ごめんね』と言われるのではなく、普段以上の活躍をして『ありがとう』と言ってもらえる選手にならないと」と、一つ先のレベルを見ている。最後の砦たるGKに必須の「心意気」だろう。
関大4年生になろうとしていた一昨年春、グリッツに「ホッケーを続けたい」とメールを送った。大学関係者の尽力もあり、練習参加が実現。就職先も「日本ケンタッキー・フライド・チキン」に決まり、入団した。「今後、日本のアイスホッケーがどうなっていくかという不安は正直ありました。グリッツのデュアルキャリアという理念に共感して……」。仕事とホッケー を両立させるという道がなければ「渋々ホッケーをやめていたんじゃないかと思います」と言う。今はトレーニング時間など勤務先からの配慮も得ながら、新入社員とルーキーGKという二足のわらじを履きこなす。
苫小牧出身で、アジアリーグを見て育った。当時の王子イーグルスには、ベテランの春名真仁、まだ若手だった成澤優太といいGKが揃っていた。その影響もあるのか、石田は「地味なプレーにこそ、ゴーリーの良さが詰まっている」という。派手なセーブよりも、相手がゴールできるコースを一つ一つ、確実に潰していくようなスタイルが好みだ。この日、反対側のゴールに立っていたアニャン GKのマット・ダルトンなどは、最高のお手本だという。
「ダルトンを見ていると、とにかく体勢が崩れない。シュートを打たれても、常に体のど真ん中で受け止めているような印象さえあります。それは自分からど真ん中になるように動いているからなんですよね。そういうプレーをできるようになりたい」
グリッツはこの連敗で、ついに最下位に転落した。大敗した初戦は、FW松渕雄太が「今季ワーストゲームだった」と口にし、内容も「相手を過大評価しすぎていたと思います。パックを持った時に『相手が詰めてきているんじゃないか』とか、勝手に恐れていたんじゃないか」と振り返るほどだった。残り10試合、目標にしてきたプレーオフ圏内の4位とは勝ち星で8つの差がある。新しい力が、崖っぷちのチームを引っ張り上げるか。