最下位が決まったグリッツと首位アニャンの差。GK石田を消耗させた圧力「右も左も見ないと……」

取材・文・写真/今井豊蔵

アジアリーグアイスホッケー2023-24シーズン
1/21(土)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:900人

横浜グリッツ 2(0-0、1-4、1-2)6 HLアニャン
ゴール:【グリッツ】大澤、岩本 【アニャン】カン・ユンソク、アン・ジンフィ2、イ・チョンミン、チョン・ジョンウ、イ・ジュヒョン
GK:【グリッツ】石田 【アニャン】ダルトン
シュート数:【グリッツ】32 【アニャン】42

最下位決まったグリッツが首位アニャンと5−6の大接戦、ただその翌日は……

すでにレギュラーシーズン最下位が決まってしまったグリッツは、何を目標に戦うのか。今季最後となるアニャンとの対戦カードでは、難しい問いを突きつけられた。
1月20日の試合は5−6という大接戦。2度にわたって2点ビハインドを追いつき、ゲームウィニングショット戦にまで持ち込んだものの惜しくも敗れた。そして1月21日の2戦目で先発マスクを被ったのが、入団2年めのGK石田龍之進だ。

第1ピリオドは0−0と互角の戦いを披露し、第2ピリオド20分30秒にはFW大澤勇斗が先制ゴール。ゴール裏のボードに跳ね返ったパックが、目の前に飛び込んできた幸運を見逃さなかった。
ただアニャンはさすが昨季のチャンピオンチームだ。27分23秒に、FWカン・ユンソクが同点ゴール。その後34分25秒にFWアン・ジンフィ、34分56秒にはルーキーFWのイ・チョンミンにも今季13点目となるゴールでたたみかけられた。この日のグリッツには、ビハインドを詰める力は残っていなかった。

石田の出場は今季5試合め。前回は1月6日のレッドイーグルス 戦で5失点し敗れている。当時もグリッツが先制し、第2ピリオドまで1−1だったものの、第3ピリオドに4失点と崩れた。石田は「前回出たイーグルス戦もそうですが、1ピリはすごくいいパフォーマンスが毎回できている。出場したここ3試合、第1ピリオドに入れられたのは合計で1点なんです。フレッシュな状態というか、ゼロからやる分にはいいパフォーマンスができていると思います」とする。

一方で「苦しい時間が続くと、そこから……。チームとしてはスケーターが要因とも言ってくれますけど、少なからずGKがリズムを崩してしまっている。バタバタ崩れるピリオドがあるのは何とかしないといけない」と大きな課題を挙げた。

というのも「チームに謝られるGKではいけない」というのが石田のポリシーだからだ。GKがシュートを止めれば、スケーターのミスが救われることもある。最後の砦という使命感が強いのだ。「味方がミスした時こそ、もう一度流れを戻せるきっかけを作れるのがGK。それなのにガタガタ崩れるピリオドがある」と唇をかむ。

グリッツから見たアニャンの強さ「矢のように刺してくる」

石田はその上で、リーグ首位を走るアニャンの強さを「パックキャリア以外の圧力が強いんです。右も左も見ないといけない。パスがうまいので考えることも増える、そうするとシュートに100%集中できなくなるという繰り返しです」と表現する。浅沼芳征監督も「ルーズパックに対するハングリーさと、プレーのアイデアは見習わなければ。少しでも遅くなると、矢のように刺してくるというか……」と、いいお手本と捉えている。

ただ、グリッツは今季、アニャンからの初勝利をアウェーで挙げてもいる。昨季初めて対戦した頃のような、圧倒的に攻め込まれる試合は減った。パックを持って攻め込み、得点につなげられる場面が増えている。石田は「それも成長しているからだと思います。例えば0−2、0−3って一見接戦ですけど、やっぱり点を取れないと勝てないんですよ。それなら、点を取れる方が希望がある」。26試合を戦って3勝という結果は厳しいものでしかない。昨季の11勝からは大きく勝ち星が減っているが、他チームとの差が詰まっているのも確かなのだ。

お互い高校生だった頃からの交流が続いている。これもアジアリーグが続いているからこそ、の1つの形だ

試合後の石田は、リンクの前でHLアニャンのある選手と待ち合わせていた。入団2年目で、韓国代表にも入っているDFチ・ヒョソクだ。一見しただけでは、2人の関係性はわからない。石田に聞くと「帯広選抜とソウル選抜で、試合をしたことがあるんです。その時ホテルの部屋とかで色々話して……キャラが濃かったので、覚えていたんです」と笑いながら教えてくれた。高校を出てからはしばらく交流が途絶えていたが、昨年チ・ヒョソクが石田のインスタグラムを発見し連絡。一緒に食事に行く仲になったという。

2人の会話は、英語や翻訳アプリを用いてなんとか進められるのだという。石田は「僕も韓国語を覚えた方がいいですかね?」とあらゆるところから進化のヒントを探るつもりだ。アジアリーグが始まって以降、アンダーカテゴリーでも日韓の交流は増え、日本と韓国の世界ランキングは逆転した。並んで新横浜の街に消えて行く2人の背中からは、2003年のスタート時にアジアリーグが掲げた「アジアの国が切磋琢磨して成長する」という理念が残してきたものを、少しだけ感じられた。

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