「勝つことが一番の薬」
医大を休学した異色ルーキーもデビュー戦でアシスト
取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵・アイスプレスジャパン編集部
■アジアリーグアイスホッケー 9/17(土)KOSE新横浜スケートセンター
ひがし北海道クレインズ 5(1−1、2−1、2−2)4 横浜グリッツ
開幕から4連敗していたひがし北海道クレインズは17日、敵地新横浜で横浜グリッツを5−4で下し、今季初勝利を挙げた。今季からチームを率いる斉藤毅監督にとっても初勝利だ。2019年にクラブ化したチームの創成期を支えた選手が抜け、少数精鋭で戦う今季、指揮官はどんなチームを作ろうとしているのだろうか。
試合後の斉藤監督はベンチを出ると、清川和彦ゼネラルマネジャーと抱き合って喜んだ。ただここはまだスタート地点だ。その後は努めて冷静に言葉をつむいだ。
「苦しい展開でしたけど、勝つことがこのチームにとっては一番の薬ですからね。ここからですよ」
両チームは立ち上がりから激しい攻防を続けた。グリッツが第1ピリオド8分、新外国人DFティモシー・シュープのゴールで先制。クレインズは14分にFW松野佑太のゴールで追いつく。第2ピリオドは1点ずつを取り合いさらに残り4秒というところで、クレインズのDF大津夕聖がパワープレーゴールを決め勝ち越した。
このままクレインズが押し切るのかと注目された第3ピリオド、開始から攻めこんだのはグリッツだった、25秒に新人FW杉本華唯のゴールで同点。ここで斉藤監督は、失点してベンチへ戻ってきた選手に声をかけたという。
若い選手の可能性を引き出すため「悔しいなら感情を出せ」
「小さなミスからの失点です。そこで『悔しいなら感情を出せ』と言いました。下を向いて帰ってくるなと。そうしたら点を取りたいセットで取れた。ミスをカバーするいいサイクルで試合を終えられたかなと思います」
5分にFW斉藤大知のゴールで再びリードを奪い、7分にはFW池田一騎のゴールで突き放す。この日が初出場だったFW矢野竜一朗にもアシストがついた。医大を休学して、アジアリーグに身を投じた矢野を、いきなり池田とFW寺尾裕道と組む主力セットに放り込んだのは「池田も寺尾も日本代表経験のある選手。一緒に組むことで少しでもいろんなことを経験してほしい」と願ってのことだ。
“恩師”からのアドバイスも
斉藤監督は1999年に日本リーグの雪印に入団し、高卒1年目から出場機会を得た。2年目から主力セットで出場するようになるが、このシーズン限りで雪印は廃部に。クラブ化した札幌ポラリスから王子製紙、日光アイスバックス、そしてクレインズへ移籍して2019−20シーズン限りで引退した。アジアリーグ通算235ゴールは歴代2位。528ポイントは同3位。攻めも守りもできるFWとして、日本代表にも欠かせぬ戦力だった。
その過程では、様々な指導者と巡り合っている。雪印に入団した時、ヘッドコーチはのちにNHLカナックスや、平昌五輪のカナダ代表を率いるウイリー・デジャーデン氏。監督はのちに日本代表監督となる岩本裕司氏が、選手兼任で務めていた。岩本氏には自身が監督になるにあたって、アドバイスを受けたという。
「とにかくブレるな、信念を貫いてやりなさいと言われました。負けるとどうしてもブレが出るけど、そこをブレずにと」
今年のチームコンセプトは、得点力のアップに置いている。そのため若手の成長にかけてみようと腹をくくっている。「うちはアジアリーグの経験が少ない選手ばかり。競っているとベテランを重用して勝ちたくなりますけど、そうはしません。今いい経験をさせないと。少ない人数の中で、ギリギリで勝つ経験をしてほしい」。
ルーキー指揮官はブレずに、前を向く。