「試合に出るってこういうこと」 久慈修平がグリッツ移籍で感じた喜び
徹する自身のスタイルと最後の「目標」
取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部
今季より横浜グリッツでプレーする久慈修平選手の思いに迫る。今井豊蔵記者によるインタビュー記事の後編をお届けします。(編集部) →前編はコチラ
「試合に出るってこういうこと」グリッツから受けるスコアの期待
アジアリーグアイスホッケーが9月7日に開幕する。トップリーグ参戦5年目の横浜グリッツに新加入したのが、アジアリーグ史上5位タイとなる通算206ゴールを残しているFW久慈修平だ。この春、昨季までプレーしたレッドイーグルス北海道を戦力外となり退団。新天地はデュアルキャリアという新たなやり方を掲げるグリッツに決まった。退団から揺れた胸中と、グリッツでの新たなホッケー人生にかける思いをたっぷりと語ってくれた。(全2回の後編)
8月24日に日光アイスバックスと戦ったこの夏初のプレシーズンマッチで、久慈はFW権平優斗、 杉本華唯と組むトップラインで起用された。トップリーグ選手となって15年目、再び背負うスコアラーとしての期待にはうれしさしかない。
「試合に出るってこういうことだよな、という感じでしたね。久々に喜びを感じました。去年は多くても5~6シフトという試合がかなりあって。パワープレーもほとんど出ていませんでしたし、かなり変則的な出方だった。これだけ出してもらって、試合するのは楽しいなと思えましたよ。本当に」
プレシーズンマッチでは毎試合得点を重ね、開幕を迎える。ポジショニングの妙や一瞬のスピード、小さなモーションからの正確で強烈なシュートはグリッツの選手がまだまだ持ち合わせないものだ。今季氷上では「久慈修平とは何者なのか」を証明するためにプレーする。
「言葉を選ばずに言えば、ここ何年かは『切られたくない』という気持ちでやっていたと思うんです。チームの要求することに対して『こういう動きをしておかないと』というプレーです。もちろんグリッツでも決まりごとはあるんですが、気持ちの上では解放されたというか、自分のあるべき姿で1年1年やっていくだけだと思っています。後輩に『こうしたほうがいい』と口にするのなら、自分がまずやらないといけませんからね」
もちろん“トシ”を自覚する瞬間もある。若き日の久慈は、リンクを所狭しと駆け巡るスピードが最大の武器だった。37歳の今も同じようにプレーできるかと言えばそうではない。
恩師との会話で固めた最後の目標「悪い夢を見ないように…」
「認めたくはないけれど、若いころに比べて体力は落ちているでしょう。それでも今できること、経験したことを出せるというのは全然違います。守りの意識とか、パックを奪いに行くというスタイルはここ数年やってきたこと。裕司さん(岩本HC)にも『ベテランが手本として、率先してやってほしい』と言われていますし。若いヤツより目立ってやろうと思っていますよ」
一方で、若いチームに何を残せるかも、自然と考えるようになっている。グリッツの選手と接して感じたのは、知りたい、教えてほしいという欲が強く、とても素直なことだ。
「たぶん、知らないことのほうが多いと思うんですよ。やれる能力はあるのに。そういう意味でも、ホッケーは最後は頭だなと思います。グリッツの選手は動けるけど、状況判断となると言われなければわからないところがある。僕はそこは、嫌われようが何しようが言っていこうと思っています。最下位のチームなんだから、何か変わらないといけない。変化を受け入れることも大事だと思いますから」
周囲の支えもあって延長された現役生活。久慈はどんな形での引退を望むのだろうか。苫小牧を発つ前、母校の駒大苫小牧高で氷上練習に参加した。そこで恩師の鈴木司・同高総監督に「最後の質問」だと思って聞いたことがあるのだという。
「『何を目標に頑張ればいいでしょうか』と聞いたんです。そうしたら先生は『悪い夢を見ないようにするのが一番だ』とおっしゃったんです」
どういう意味なのだろうか。
「悔いを残すと、選手を辞めたあとに悪い夢を見てしまうというんです。リンクに立ちたいのに立てないとか、試合したいけれどグローブがないとか。だから悔いをいかに残さず、いかにいい夢を見られるようにするかだというんです」。グリッツでの時間は長くはない。そこで心の底からやりきったと思えるかどうかが、久慈のホッケー人生の価値を決める。
成澤優太と15年ぶりのライバル関係に「もちろん…」
さらに恩師の言葉に、もう一つうなずいた。「一人でも応援してくれるファンがいるのなら、その人のためにやらないといけない」。現役生活の終盤を迎える久慈にとっては、大きな指針だ。
「一人のために、応援してよかったと思ってもらえるためにやるんだと。これは本当にその通りだと思いますし、僕は応援してくれる方がいる限りやり切ろうと思っています」
昨季のレッドイーグルスには、3人の1987年生まれの選手がいた。久慈のほかにGK成澤優太、DF山下敬史。成澤のGKマスクには、3人の似顔絵が描かれていた。1年後、成澤はまだ日本代表の主戦としてゴールを守り、8月の五輪予選では強豪相手に大活躍。一方で久慈とともに戦力外通告を受けた山下は引退し、レッドイーグルスのコーチとなる道を選んだ。
「同じタイミングで引退したいと、口には出さないけれどお互いに思っていたはずです。山下も引退するつもりなんてなかったでしょうし。ただ今季は、それぞれの立場に分かれてしまった。ナリ(成澤)とは大学以来の対戦になりますから、実戦で相手にしたらどんな感じなんだろうという興味はあります。もちろん(ゴールを)入れてやるつもりですけどね」
どこまでも泥臭く、ゴールに向かっていく久慈修平。新横浜のファンに歓声で迎えられる日は、もうすぐそこだ。