14日の活動停止を乗り越えて。アイスバックスは王者に対し善戦
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
■アジアリーグジャパンカップ
レッドイーグルス北海道 4(1-0、0-0、3-1)1 栃木日光アイスバックス
【得点】イーグルス:三田村2、久慈、相木 アイスバックス:乾
終わってみれば1-4。しかし、決して一方的な敗戦ではなかった。
10月2日(土)、栃木日光アイスバックスはアウエーのレッドイーグルス北海道戦で今シーズン初戦を迎えた。
本来ならアイスバックスの開幕は9月18日であるはずだった。
しかし、ホームでの開幕を直前にした9月13日に発熱者がチーム内で見つかり検査したところコロナウィルスの陽性が判明。チーム全員が濃厚接触者という判定となったため、開幕を直前にして2週間の活動停止を余儀なくされてしまう。
チームはその後9月28日(火)にようやく活動を再開。日光で氷上練習を3日間行い、移動日を経て苫小牧で土曜日に試合。
「隔離期間は選手みな自宅に缶詰でしたからね。トレーナーからメニューをもらってできることを各自で取り組んだり、新ルールに関するミーティングをリモートで行ったりと、そのなかでできることは取り組んで来ました。でも、『3日練習を休めば感覚が落ちる』のがアイスホッケーなので、まさに未知の状況でした」(アイスバックス藤澤悌史監督)という、これまでアジアリーグの選手が誰も経験したことのない準備状況で、ファーストマッチに臨むこととなった。
対戦相手はここまで4戦して負けなしのレッドイーグルス。
アイスバックスの調整状況を考えれば序盤からレッドイーグルスに圧倒されても仕方ない、と考えていたが彼らの戦いぶりは決してそうではなかった。
「(2週間前に予定されていた)開幕を楽しみに取り組んで来ていたので、活動停止にはメンタル的にもやられました。でも今日、『やっと開幕だ』と言う気持ちを選手達全員が心に秘めて、みんな良い顔で試合に臨めていたと感じました」(佐藤大翔キャプテン)というように、逆にチーム全員が今やれることを出し切ろうという心境で試合を迎えていた。
先発のゴーリーマスクを被ったのは井上光明。
「コンディションも良く、しっかり準備ができていたので。昨季から福藤と井上2人で回していくなかで、みんなの信頼も得ているので、コンディションの良さを買って起用した」(藤澤監督)。
その期待にしっかりと井上は応える。ゲーム序盤から相手のシュートにさらされるも、その攻勢をことごとくストップ。ベテランらしい落ち着いたプレーで試合を引き締め、その流れでアイスバックス攻撃陣も徐々に練習で培った形を氷上で見せていく。
「昨季はマンツーマンを主体に守っていたが、今季はそれをベースにしつつも数的有利を作れるようなディフェンスに取り組んでいて、守り匂われる時間帯も少なくできた。FW陣もシュートブロックを頑張ってくれて、シュートをゴールまで届かせないという内容にはできていた」(佐藤大翔キャプテン)
今できる最大限のプレーを。その思いで仕上げた守備戦術は機能
しかし先手を取ったのはやはり王者だった。
第1ピリオド13:03。レッドイーグルスFW21久慈修平がブルーラインを横切った直後の早いタイミングでシュート。ゴールハンターである久慈らしいゴールの隅をしっかり狙って放たれたパックはディフェンスの体に当たってわずかにコースを変えたようにも見え、さすがのGK井上もこれには反応できず。アイスバックスはレッドイーグルスに先制点を許してしまう。
しかし、アイスバックスはこの失点から大きく崩れるようなことはなく、その後に得たパワープレーでは再三レッドイーグルスのゴールに襲いかかり、あと少しでゴールというシーンを数多く作り上げる。
第2ピリオドも全体的な流れとしてはレッドイーグルスのペースで進んだが、お互いに攻めてはしのぎ合う展開が続くなど非常にテンポある試合内容。アイスバックスは3日前まで氷上練習ができていなかったという状況を考えても、その想像以上にしっかりと足も動いていており、「守りとしては、よい形が作れていた」(佐藤キャプテン)と、レッドイーグルスの早い攻めにもユニットで対応ができていた。
第2ピリオド終盤にはFW18古橋真来のシュートがゴールポストに当たって弾かれたり、パワープレーでFW54伊藤剛史のシュートがあとわずかでレッドイーグルスGKの39成澤優太のファインセーブに阻まれたり、と惜しいシーンを続けて演出。
「3日間しかない練習の中で、みんなができうる最大限の努力を見せてくれた成果。まだ細かい修正はあるが今季やろうとしているシステムへの適応を選手たちは見せてくれた」と藤澤監督も一定の評価を与えた時間帯だった。
今季チーム初ゴールは乾純也
1-0から試合を動かす次の得点に焦点が絞られたが、第3ピリオド13:11にFW10三田村康平のゴールでそれをレッドイーグルスがものにし、そのすぐ後にもFW98相木隼斗が今季初ゴールとなる鋭いシュートを決め3-0としたところで試合の趨勢は見えてきた。
しかしアイスバックスは、今季こそ王者に勝ちたい、と磨いてきた攻撃の形を披露。
17:01には、DF46渡邉亮秀がブルーラインから放ったシュートのリバウンドをFW17乾純也が空中でスティックブレードを合わせて今季チーム初となるゴールを奪う。
「渡邉選手がDFの位置からシュートを打ったリバウンドに対して反応でき、少し浮いていたパックだったが上手く当てることができた。僕自身、今までスコアリングに関しては苦しいシーズンを過ごしてきましたが開幕で1点を取れたということは、この後の試合にも繋がってくると思っています」(乾)
これで2点差に詰めよったアイスバックスは、第3ピリオド残り1分を切ったタイミングでGKをあげての6人攻撃を仕掛ける。最後まで勝利への執念を見せた形ではあったが、逆にパスを読まれてカットされエンプティネットゴールを献上し1-4。
首位を快走するレッドイーグルスの連勝を止めることこそできなかったものの、この試合にこぎつける前に強いられた厳しい環境を考えれば決して悲観することもない試合内容でアイスバックスは今季初戦を終えた。
注目の今季2戦目。アイスバックスの巻き返しはあるか?
「第3ピリオドが始まる前に良い位置にいられたのは評価できますが、先に点差を2と広げられたのは痛かった。チーム全体のパフォーマンスについては、14日間の活動停止の影響がなかったといえばウソになってしまうので言い訳はしたくないですが、選手それぞれが自宅ででもできるトレーニングをしっかり続けてくれて、試合として成り立つレベルまで引き上げてくれたことはこの後に向けても意味のあることじゃないかと思っています」(佐藤キャプテン)。
敗戦の悔しさを噛みしめながらも、納得いくレベルの出来をこの試合でファンの前に披露できたことは選手達にとって前を向ける要素となった。
「隔離後、3日間しか練習できていない中で、第2ピリオドまでタイトな試合をレッドイーグルスに対してできたことは、僕たちそれぞれの力があるということ。それは自信にしていい」(乾)
「明日はゲーム勘にも慣れて、もっと良い動きができるはず。試合でなければできないレベルまで心拍数を上げる運動量を体感できたので、個人のパフォーマンスも上がっていくはず。今夜しっかり良い休養をとって疲れを抜くことができれば、明日は序盤からガツガツと向かっていくプレーができると思います」(佐藤キャプテン)
藤澤監督も「ポストに3本くらい嫌われたりとか、お互いにチャンスを外していたなか第3ピリオドに決定力の差が出たものの、試合内容的には良くやってくれたと思います」と選手の頑張りを称えた。
アイスバックスが王者とのマッチアップで激しく戦ったことで試合勘を急速に取り戻すことができていたならば……。連戦となる日曜日の試合、アイスバックスの選手達の動きに注目したい。
レッドイーグルス菅原監督の試合後会見でのコメント
「アイスバックスさんがコロナの影響で充分なトレーニングでできていなかった状況ではあったが、両チームとも気持ちの入った内容、かつケガ人も出ずしっかり試合できたことは良かった。予想以上に相手の気持ちや運動量は高かったので苦戦した。点差ほど内容の差は無く、イーグルスとしては相手にチャンスを与えることが多く、自分たちのやるべきことをやれていなかった。第3ピリオドのスタートは良かったものの、得点が入ったからよしというわけではなく、修正すべきところは改善していきたい。チームには激しいポジション争いもあるし、明日の試合でも選手それぞれの良さが出る組み合わせを模索していく」