編集部より:先週開幕を迎えたアジアリーグアイスホッケー。本日9/10には、レッドイーグルス北海道、栃木日光アイスバックス、横浜グリッツがそれぞれホーム開幕戦を迎えます。
アイスプレスジャパンでは、今季も鋭意アジアリーグアイスホッケー情報をお伝えしていきます。
その中で、昨2021-22シーズンに今井豊蔵記者が取材をしていたものの、編集部の理由で記事化がされていなかった横浜グリッツの記事をまずはアップさせていただきます。
適切な時期にアップできていなかった事は、編集長ポタやんの名において深くお詫びします。

今季は記事の少ない平日を使って、今後もこんなかたちの過去振り返りものの取材記事を出させて頂くこともあるので、ぜひ、読んでいただけたら幸いです。

たかが2勝、されど2勝…2年目を戦い終えた横浜グリッツに見えた「課題と収穫」

取材・文/今井豊蔵 写真/アイスプレスジャパン編集部


2勝26敗。

新型コロナウイルスの感染拡大によって失われた試合はあったものの、フルシーズンを戦い抜いた横浜グリッツが残した数字だ。

アジアリーグに加盟して、2年目のジャパンカップ。前期にはフリーブレイズ、アイスバックスから念願の白星を挙げた。ただ後期リーグは12戦全敗。延長戦やPS戦にもつれ込んだ「惜しい試合」はいくつかあったものの、白星には届かなかった。連戦の1つ目はいい試合をできても、2戦目に大きく崩れてしまう傾向もはっきりしていた。ベンチはどう感じていたのか。3人の証言を元に、今季の総括をお届けする。

キャプテン熊谷豪士「2勝できたことは大きかった」

今季から主将に就任したDF熊谷豪士は「たった2勝かもしれませんが、昨年に比べれば大きな2勝です。平野、池田がいない中でも2勝できたことは大きかった。1人1人が仕事できていた」と勝利の味を振り返る。個人的にも、今季はトップリーグ通算350試合出場を果たした。2014-15シーズンにはフリーブレイズの一員として優勝経験もある。

一方で、後半戦に成績を伸ばせなかったことには悔いが残る。「正直、きつかったですね…」と言うように、理由の一つは体力面にあった。熊谷はアジアリーグが最も試合数をこなしていた時期、フリーブレイズでシーズン48試合に出場したことがあり、さらにプレーオフまで戦っている。それでも、別に仕事を持つ「デュアルキャリア」をこなしながらプレーした今季の28試合とは、疲労度でみれば比べ物にならなかった。

「(フリーブレイズでは)30~40試合出ても、ホッケーだけに集中できていたわけです。それが今は仕事もホッケーも100%でやらなければならない。なかなか大変なシーズンでした。主将も小学生以来で、もっとリーダーシップをとれたなと思うこともあります」

昨季はコロナ禍により、12月から2月までほぼ3ヶ月試合をできなかった。グリッツがシーズン通してこなせたのは、わずか16試合。コロナの感染拡大が深刻だった首都圏を本拠としていることもあり、圧倒的に少なかった。それが今季は、前期だけで16試合を消化している。そこからのスタートになる後期リーグは、全てが未知の領域だったと言っていい。課題が現れるのも必然だった。

指揮官が見る次の課題「もう一声かければ…の場面が増えた」

浅沼芳征監督は、チームの成長と、それによって見えるようになった「惜しい」場面を指摘した。「点を取るパターンは増えたと思います。一方で、もう一声かければ点をとれた、防げたという場面も増えた。チャンスを生かしきれない、シュートが枠を捉えきれていないんです」。いい試合、惜しい試合をを繰り広げられるようになったからこそ、技術とチームづくりの両面から、足りない部分がよりはっきりと見えるようになった。

グリッツは選手が「本業」も100%でこなしながらプレーするチーム。技術の向上に割ける練習時間も、チームを一つにするために集まれる時間も他チームより短い。効率の良い方法を生み出さない限り、差は詰まるどころか、広がる一方だとも言える。

「うちは火水木の、それぞれ70分間しかチーム練習の時間がありません。タイムマネジメントが求められます。限られた回数の中で、どれだけ集中していただろうかと常に振り返り、試合に通じる練習をするという意思、心構えが求められます。そして体力的な面は、各自が自分で努力しなければいけないところです。デュアルキャリアでやる以上、練習時間が少ないというのは言い訳になりません」

シーズン中も、指揮官は「コミュニケーションが足りていない。もっと言葉を交わせ」と語りかけていた。ほんの一瞬の連携ミスで、失点してしまうのがアイスホッケーだ。我慢しながら相手の隙をつくプレースタイルが定着したシーズン中盤以降も、コミュニケーションがうまくいった試合も、そうでない試合もあった。試合でのムラを減らすには、練習を離れた日常からもっと、もっと一つになり、チームメートの意思を感じられるようにならなければならない。

チームが発するメッセージ「環境ではなく、努力で結果を出せる」

FW岩本和真、FW鈴木ロイと、アジアリーグの他チームでプレー経験のある選手を加えた2年目、既存選手にも大きな変化が見られた。浅沼監督に成長した選手について問うと、次々に名前が上がる。

「GK黒岩義博は伸びましたね。2連戦を両方とも任せることが増えた。体力、集中力という個人のスキルもアップしました。FWでは松渕雄太、石井秀人。石井は練習生からスタートして、パワープレーでも起用できるようになった。システムを理解して、進化してくれたなと感じます」

「DFでは、本職ではないというか、FWからコンバートした金子直樹が我慢強くプレーできるようになったなと思います。同じく昨季までFWだった川村一希も、DFとして守るシーンをしっかりこなせるようになりました。まず熊谷と、次に秋本(デニス)と組ませたんですが、彼らからDFとしての技術を学んでくれた。試合を俯瞰して見られる能力があるなと思ってコンバートしたんですが、しっかり生かしてくれたと思います」

ここで名前の挙がった松渕や茂木は大東文化大、石井は日体大と、関東大学リーグではなかなか上位に食い込めない学校の出身だ。これまでなら、実業団チームの目に止まることは少なかったはずだ。それでも立派にトップリーグで戦力となれることを証明した。一方で、強豪校の選手がホッケーを続けたがらないという現状もある。低迷の続く日本アイスホッケー界の「伸びしろ」は、彼らのような選手にあるのかもしれない。

「(慶大出の)氏橋もそうですね。子どもたち、学生たちに夢を与えると思うんです。『環境に恵まれない組織にいるから無理なんだ』じゃなくて、色々なところでチャンスを作れるんだと思ってほしいんです。梅野は北九州、矢野は福岡の出身ですが、ここまで来た。北海道生まれじゃなくても出来るんです。環境に言い訳せず、努力で結果を出せると示していくのも、このチームの価値かなと思います」

来季のチーム構成はこれからだが、すでに新加入が決まっている選手もいる。新たな可能性を見せてくれる選手が現れれば、グリッツだけでなく日本アイスホッケー界の進歩にもつながる。

けがに泣いた池田涼希「全然嬉しくなかったんですよね…」

グリッツ誕生と同時にトップリーグデビューを果たしたFW池田涼希にとっては、試練の2年目となった。昨季は16試合に出場してチームトップの14ポイントを挙げ、日本代表候補にも選ばれた。それが今季は10月のクレインズ戦で右足骨折の重傷を追った。試合に戻ってこられたのは2月の最終週だ。4か月のブランクの間に、チームは記念すべきリーグ初勝利を含む2勝を挙げていた。

「正直、勝った時も全然嬉しくなかった。初勝利のフリーブレイズ戦なんて、残り5分くらいになったら『何とかフリーブレイズ決めてくれ!』って思ってたくらいです。こんなことを言ってはいけないのかもしれませんけど」

正直な、真っすぐな感情だろう。チームの核となることを期待されたシーズンで、それに応えきれなかったのだから。試合中に折った足首は、手術せずに自然治癒を待った。その間「日常生活が大変でしたね…ずっと“ケンケン”で生活していたので」。仕事は会社のパソコンを持ってきてもらい、自宅でこなした。

復帰してからの6試合で2G4A。動けない間に、学んだことがある。「怪我する前は本当に調子が悪くて、ホッケーしていても全然楽しくなかったんです」。体も頭も動いていなかった。得点できる感覚が全くなく、迷走していた。何が悪かったのかに気付けたのは、怪我の功名だ。「得点を求められて『自分がやらないと』とばっかり思っていた。今は周りに任せてゲームメークしようという考え方です。足もまだ痛いんで周りに任せて、(パスを)出せば決めてくれるという感じです。みんな能力はあるんで」。松渕、石井とのFWラインも定着しかけている。

「苦労したけど次につながる時間だったと思います。今度は自分の力で勝ちを掴みたい。『(池田が)いたら勝てない』とか言われちゃうんで」

来季に向けて、池田自身は始動を早めるという。プレーオフの裏で、グリッツの来季はもう始まっている。勝てないことに慣れてしまってはいけない。来季こそ勝ち星を積み上げ、横浜に、首都圏にプロのアイスホッケーチームがある喜びを伝えられるか。飛躍の鍵は、オフにこそ落ちている。

編集部より>

こちらの記事は、横浜グリッツが昨季のホーム最終戦を終えた3月6日、今井豊蔵記者に現地取材していただき1年を総括していただいたものです。半年前ですが、だいぶ昔のようにも感じます。
今季横浜グリッツが開幕前に公開したのは「ぐぐぐ」というキャッチフレーズ。悔しい思いを貯めに貯めて、今季こそ歓喜を爆発させたい。そんな思いのこもった言葉です。

まずは今日の開幕戦、どんな戦いぶりを見せてくれるか? また、今季どこまで勝ち星を伸ばすことができるか注目していきたいと思います。新しいメンバーも入ってきました。
今季は岩本和真選手を新キャプテンに指名した横浜GRITSまず目標はプレーオフ進出!でしょう。

横浜グリッツ2022-23シーズンのメンバーリストはこちら

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