「苦労も、苦労じゃないんです」青山大基がスターズ神戸を選んだ理由
日韓中の多国籍軍が秘める可能性

「神戸で1から作るチーム」青山キャプテンが多国籍軍団をまとめ上げる

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵

スターズ神戸は53年ぶりに関西からトップリーグへ参戦

 今季からアジアリーグに新規参入するのがスターズ神戸だ。日本のトップリーグに西日本を本拠地とするチームが加入するのは、大阪・難波から日本リーグに参戦していた福徳相互銀行が1972年に廃部となって以来、実に53年ぶり。集まった20人はアジアリーグ経験者に加え、韓国、中国の選手や、海外でプレーしていた日系選手など様々な経歴を持つ。一体どんなホッケーを見せてくれるのか。青山大基主将と、外崎慶監督に聞いた。

 青山は明大からレッドイーグルス北海道に加入し、昨季まで3シーズンプレーした。日本を代表する強豪での競争は熾烈だ。年を経るごとにアイスタイムは減り、ベンチで出番がないまま終える試合もあった。「出番がなかなかない悔しさは、そりゃありましたよ」。オフに退団が決まり移籍先を探すと、複数のチームから獲得の声がかかった。その中で、まだ形がないスターズを選んだのはなぜだったのか。

「1番は必要としてくれたこと。あとは1からつくるチームだからです。成長過程にあることにワクワクを感じたんですよね。正直、これまでいた環境とは全然違います。そこも、自分たちで結果を残して、いい環境に変えていくことができると思うんですよ」

 多国籍軍でのスタートとなる。アジアリーグを経験した日本人選手は5人しかいない。韓国からはHLアニャンでプレーしていたDFイ・ミンジェと、6人の大卒ルーキーが加わった。中にはフルの韓国代表歴がある選手もいる。中国から来たFWホウ・ユーヤンとワン・ジンにも代表歴がある。

 ただ、ホッケーはチームスポーツ。強くなるには密なコミュニケーションが必須だ。チーム内の共通語は主に英語となるが、現状では完全に伝わっているとは言えない。青山も、まだチーム作りの時間が足りていないのは認めざるを得ない。

「もっと伝えたいというモヤモヤを、いかに減らせるかでしょうね。システムが浸透していけば伸び代はあると思うんですが……。オフアイスではみんなフレンドリーなので、それを氷上にどう活かすか。スターズのルールを1から作りながらやるしかないです。トライ&エラーです」

 育ったホッケー文化が違う選手たちを、主将としてまとめなければならない。「苦労はもちろんありますよ。でもそれを苦労、苦労と言うんじゃなく、楽しみたい。思考の転換です。そうすれば苦労も苦労じゃないんです」。毎日のように出会う壁を、一つずつ乗り越えていく。

 華麗な実績のある選手がいるわけではない。戦い方も「きれいなホッケーはできないなと思っています」と現実主義だ。「相手が嫌だなと思うプレーをもっともっとやっていくことで、白星へ近づけると思います」。他のどのチームよりも走り、当たり、がむしゃらにプレーすることでファンの心をつかみたいという。

英会話レッスンも受ける選手たち…みなと神戸を多国籍軍が沸かせる

スターズ神戸・外崎監督(右)と横浜グリッツ・岩本監督。9/20、21に指揮官として新横浜で相まみえる

 外崎監督にとっても大きなチャレンジだ。コクドや王子イーグルス、日光アイスバックスでプレーし、引退後は地元札幌に戻って指導者となっていた。アンダー世代の日本代表の指導にも関わり、ここ数年は機会があればトップリーグの指導をできればと考えていたという。

「新規参入チームの監督なんて、なかなかない機会でしょう。今後のスターズの礎を築くつもりでやっていますよ」。氷上トレーニングは新設の「シスメックス神戸アイスキャンパス」を使えるものの、都市部のため陸上トレーニングの場所がなかなか見つからないのが悩みだ。ここまでは公園などを工夫しながら使ってきたという。

 戦力的には、他チームよりも劣るのが正直なところ。まずは勝つという結果よりも、その過程にフォーカスしてチーム作りを進めている。

「若い選手ばかりですし、これからいろいろなことが整うはずです。常にチャレンジし続けるチームでありたい。数字よりも、毎日成長できることが大切だと思っています」

 海外出身組には、サイズのある選手が多い。そこに日本選手のスピード、テクニックを融合して戦うことになる。外崎監督は学生時代に海外でのプレー経験もあり英語は堪能。さらに映像をうまく使いながらシステムの浸透に努めている。日本人選手も、TOEICのスコア向上をリンク外の目標として、オンラインで英会話のレッスンを受けている。

「日韓中の選手がいる。ファンの皆さんもそういうところに魅力を感じてもらえたら」と指揮官。拠点を置く神戸には中華街もある。ファンの開拓という面でも可能性を秘める編成だ。

 8月末に日光と東京で行われたプレシーズンマッチに、スターズは小さなマイクロバスにぎゅうぎゅうになってやってきた。神戸から日光までは所要10時間を超える。選手たちは「マジできついです」と口を揃えたが、どこか楽しそうでもあった。これも、新生チームの第一歩。新たな歴史が生まれるシーズンを、全力で駆け抜ける。

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