「スポットライトは浴びなくていい」アジアリーグ初得点、
東北フリーブレイズDF、チョン・ホヒョンが異国で貫く哲学
取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵
アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
1月18日(土) レギュラーシーズン@神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンター 観客数:880人
横浜グリッツ 3(1-0、1-2、1-2)4 東北フリーブレイズ
ゴール:【グリッツ】杉本、池田、ラウター 【フリーブレイズ】猪狩、チョン・ホヒョンx2、橋本
GK:【グリッツ】冨田 【フリーブレイズ】畑
シュート数:【グリッツ】34(9、11、14) 【フリーブレイズ】25(7、9、9)
アジアリーグ出場20試合目……覚醒の2得点に笑顔
アジアリーグで今季、プロとしてデビューを飾った選手は15人。その中には、国境をまたいだ異国でプロとなる道を選んだ選手もいる。東北フリーブレイズのDFチョン・ホヒョンは1月18日、新横浜で行われた横浜グリッツ戦でうれしい初ゴール。さらに2点目も決め笑顔が弾けた。プロとして初めてのシーズンを送る中ではいくつかの苦悩もあった。
試合は第1ピリオド5分47秒に、グリッツがFW杉本華唯のゴールで先制。しかし第2ピリオド早々のパワープレーでフリーブレイズが同点にした。そして9分6秒、フリーブレイズはゴール裏から出たパックを大きく回しているなかで、パスが左サイドのチョン・ホヒョンに渡る。振り向きざまのシュートはゴールに飛び込み、2−1と勝ち越しに成功した。
さらに第3ピリオド3分4秒には、ゴーリーと正対したところからのミドルショットで、きっちりGKの左肩を抜きこの試合2点目。3−1とリードを広げた。その後は両チームが1点づつを加えて、フリーブレイズが逃げ切り。ルーキーの2得点は大きくものを言った。試合中はなかなか表情を崩すことがないチョン・ホヒョンも、勝利が決まると満面の笑みでGKに歩み寄り、喜びを分かち合った。
これがアジアリーグでの出場20試合目。さらにジャパンカップでも4試合に出場したところでの初ゴールだ。記念パックを大事そうにバッグに入れ「ルーキーシーズンとはいえ、前半戦はポイントもゴールもできなくて……。ちょっと苦しい時間でした。今日は運もよかったですが、熱心に練習したので、結果がついてきたと思えば気分はいいです。チームが勝ちましたし」と、ほっとしたかのような表情を見せた。
韓国・高麗大を出たルーキー。昨年1月に、八戸で受けたトライアウトが海を渡るきっかけとなった。フリーブレイズの若林クリス監督は「スケーティングはアジアリーグでも通用すると思いましたし、やっぱり韓国の選手は体が強い。その上で声も出せていたので、コミュニケーションを取れる選手なのかな」と高く評価。ただその後、HLアニャンからも獲得したいというオファーが届いた。なぜ、フリーブレイズでプロになろうと思ったのか。
HLアニャンからもあったオファー、なぜフリーブレイズに?
「より多くの試合に出場できて、自身の成長につながるのはどこかと考えたときに、アニャンでプレーするよりここに来た方が良い経験になるのでは、と思いました。もちろん韓国にいる方がいろんな意味で楽だとも考えたのですが、それでも僕はアイスホッケーが好きだし、もっとうまくなるにはそうしなければ、行こうと考えて選びました」
初めてのプロリーグ。大学ホッケーとの違いは「たくさんあります」というが、その中でも大きいのは試合に臨む際の意識だという。「プロという言葉通り、これは職業じゃないですか。だからいつも責任感を持ってやらなければいけないと思っています」。さらに「プロチームは一つレベルが高いところにあるので。僕がいなきゃいけない位置にいられないとか、いてはいけない位置にいたりとか。違いを感じるのはそういうところですね……」と、ポジショニングの違いにも面くらった。
生来の生真面目さからか、開幕からなかなかポイントを挙げられない現実には悩んだという。「ディフェンスとはいっても、ある程度ポイントを挙げないとと考えています。前半の16、17試合で1ポイントしかなかったので……」。若林監督もこれには気づいており、年が明けてから「だんだんと数字はついてくるものだから」と、焦らないようにとのアドバイスを送った。
チョン・ホヒョンも「僕はディフェンスなのでまずは得点させないこと。そのためにまず努力して、攻撃機会が来たときに確実にチャンスを一つずつ生かそうと考えを変えたら良い結果が出たんです」。頭の切り替えがさっそく結果につながった。
一人暮らしは初めて。慣れない食事が大きな壁で、一度腸炎にもかかった。「野菜を食べない方だったのですが、やっぱり食べなければいけないと。朝、ブロッコリーとキャベツ、バナナ、イチゴといろんなものをミキサーに入れて、ジュースにして一杯飲んでから出るようにしています」と、自分のルールを少しずつ作り上げながらシーズンを戦っている。目指す選手像も、明確になってきた。
アジアリーグならではの選手の行き来「与えるものがある」
「ほとんどの球技で、スポットライトを浴びる選手って攻撃に参加する選手ですよね。だから僕はそういう選手でなくていい。いつもチームの勝利のために、一生懸命にプレーする選手でありたいと思っていますし、勝利のために必要な選手でありたいと思っています。ゴールを入れるヒーローもいますが、相手が無条件に『入った』と思うゴールを食い止めるヒーローもいる」
そのスタイルを作る上で大きな影響を受けたのが、高麗大で指導を受けたキム・ウヨン監督。ハルラやデミョンのDFとして9シーズンプレーし、両チームで主将も務めた選手だ。
「(キム・ウヨン)監督も、ポイントが特に多い選手ではなかった。でもアジアリーグで長い間プレーしましたよね。大学では『守備は何も考えずに早く動いて、強く当たるというものではない。一回考えて、どうやって止めるか』だと。守備の細かい部分をたくさん教えてもらいました」
若林監督は「細かい部分ではいろいろあるけれども、1ステップずつ階段を上っていると思いますよ」と着実な成長を認め「ホッケーはミスのスポーツ。ミスをしない選手はいないので、いかに忘れるか。あとはポーカーフェースがうまくないんですよね。肩を落としている時はよくわかるので」と今後の課題を挙げる。
今季は逆に、韓国のHLアニャンでプロデビューした日本人もいる。新型コロナ禍が明け、アジアリーグならではの行き来が生まれつつある現状にも指揮官は「リーグに流動性があって、選手が動けるのはいいことだと思いますよ。スタイルが違う選手が来て、与えるものもあれば個々が成長できる。うちの若い選手も、これだけフィジカルが強い選手が来れば負けていられないと思うでしょうし」。リーグ発足時に掲げた、アジア全体で強くなっていこうとする夢は、今も受け継がれている。