横浜グリッツが首位HLアニャンにホームで堂々の2連勝。
なぜ強くなったのか? その要因に迫る

日曜日の試合後、ファンとともにグリッツの選手たちは勝利の喜びを分かち合った

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部 

「グリッツの歴史が大きく変わりましたね」
先週のレッドイーグルス戦と合わせ上位からの3連勝を達成

「グリッツの歴史が大きく変わりましたね」。2日間守備で奮闘した歴戦のベテランDF熊谷豪士が満開の笑顔とともにつぶやいたこの言葉は本心だろう。

 連戦が始まる前の時点で2位レッドイーグルス北海道に勝点13の差をつけて独走していた首位・HLアニャン。そのHLアニャンに対して5位横浜グリッツが今季初となる60分負けを食らわせたばかりか、新横浜で連勝まで果たすことになるとは誰が予想していたであろうか。アジアリーグアイスホッケーに訪れつつあるパラダイムチェンジの時。それを如実に感じさせられた2連戦。選手の声を中心に、横浜歓喜の2日間を振り返りたい。

アジアリーグアイスホッケー2024-25シーズン
11月23日(土・祝) レギュラーシーズン@神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 1(0-0、1-0、0-0)0 HLアニャン
ゴール:【グリッツ】蓑島 【アニャン】なし
GK:【グリッツ】冨田 【アニャン】ダルトン
シュート数:【グリッツ】22(6、8、8) 【アニャン】33(11、6、16)

11月24日(日) 
横浜グリッツ 3(2-1、0-0、1-1)2 HLアニャン
ゴール:【グリッツ】杉本、石井、ラウター 【アニャン】キム・サンウク、チョン・ジョンウ
GK:【グリッツ】古川 【アニャン】イ・ヨンスン→ダルトン
シュート数:【グリッツ】25(6、9、10) 【アニャン】37(11、17、9)

岩本HCの戦術が浸透。守りでは献身的なプレーの連続で失点を許さず

 11/23土曜日の試合、横浜グリッツは前戦のレッドイーグルス戦に引き続いて先発GKに冨田開を起用した。冨田はその起用に素晴らしいプレーで応える。第1ピリオドの入りから高い集中力を持ってアニャンの強力な攻撃陣のシュートをことごとくストップ。守りの要として試合を引き締める役割を忠実に果たし、最終的には60分間1つの失点も許さずHLアニャンから堂々の完封勝利を挙げた。

 そんな冨田は間違いなくこの日の勝利の立役者だったが、記者陣から勝利のポイントを聞かれると、真っ先に仲間であるプレーヤーの献身を称えた。
「シャットアウトは自分だけのものではなくて、プレイヤーのみんながシュートブロックで献身的に身体を張ってくれたり、バックドアでもハードに相手と戦ってくれたおかげです。運もありました。先週のイーグルス戦からみんなが良い流れでプレーできていたことは確かです」(冨田)

 この日両チームで唯一の得点は、本来ピンチであるHLアニャンのパワープレーの状況であるにもかかわらずカウンターから奪った蓑島圭吾のショートハンドゴール。蓑島は殊勲の1点を冷静に振り返った。
「僕のゴールの前のブレイクアウェイで(大澤)勇斗さんが上を狙って入らなかったので、あの瞬間、意表を突くような攻撃をしたいとは思っていました。相手GKのダルトンは普通に打っても入らないと思っていたので、そこを上手くつけたと思います」(蓑島)
 蓑島は守備でも奮闘。試合終了間際には6人攻撃に出てきたアニャンのラストシュートを身体を投げ出して止めるなど気持ちの伝わってくるプレーぶりで観衆を魅了した。その蓑島は強豪相手に勝利を挙げられるようになった要因に、岩本裕司ヘッドコーチの戦術がチームに浸透して来たことを挙げる。
「FW、DFと連動してパックが奪えるようになりましたし、裕司さんのやりたいホッケーへの理解度がみんなの中で固まってきた印象はあります。それでいて相手に戦術を対策されたらそれへの対応策も裕司さんは用意している。それらを練習してきて、手数が増えたというか攻撃も守備も戦術のバリエーションが豊富になった。それは間違いなく裕司さんのおかげです」(蓑島)

 蓑島が語った戦術面での進化について岩本裕司ヘッドコーチに直接話を聞くと、グリッツの勝因がよりはっきりと見えてきた。
「戦術の浸透度合いは間違いなく良くなっています。これまではピンチになると焦ってパックを無駄にポーンとクリアしたり無理なパスで逃げる傾向があったりしましたが、今はそれをさせてはいません。パックを良い形で繋げられないなら、そこで身体を使ってパックを守り、近くにフォローに来た選手に繋いでいけ、と指導しています。そのあたりのベースとなる体力がついてきたのは選手の努力のたまものです。それから危険察知能力というか、守備でも適切なポイントにスティックを置けるようになってきた。守りでどこにどの角度でスティックを置けば相手のパスを防げたり、相手が引かないといけなくなったりなどのポイントがみんな掴めてきた。アニャンがどこからキーとなる選手のプレーを使ってくる、といった情報もみんな頭には入ってきて、無駄な動きが少なくなっている」(岩本HC)

 鈴木ロイも「岩本ヘッドコーチがいつも素晴らしい分析のビデオを用意してくれて。先週のイーグルス戦でもどのタイミングでバックチェックに行き、シュートブロックをすれば良いか、をみんな理解していた。今日も良い流れで攻撃も守備も行けました」と完封勝利に笑顔を見せた。
 そんな土曜日の試合だったが、翌日も堂々たる試合ぶりで横浜グリッツは首位からの2連勝を果たす。

同点に追いつかれるも、そこからが今までのグリッツとは違った

 日曜日、グリッツは第1ピリオド序盤に猛攻を見せ、杉本華唯の技あり個人技で先制。さらに5分すぎには在家秀虎のシュートにゴール前で石井秀人がスティックを見事に合わせるディフレクションゴールで2点目を追加し、GKセーブ率トップのアニャン先発GKイ・ヨンスンを開始5分半で交代に追い込んだ。
 いっぽうHLアニャンはパワープレーを足がかりに第3ピリオド中盤に2-2の同点に追いつく。しかしグリッツがこれまでとの違いを如実に表したのが失点してからの対応だった。これまでは同点とされてしまうとそこからだんだんと運動量が落ち劣勢になっていくのが通例だったが、この日は違った。
 選手たちは前日の勝利でグリッツのホッケーに自信を深めていたのか、焦りを見せることなくHLアニャンの攻撃を跳ね返す。そして、得点に向けて気持ちの逸(はや)ったHLアニャンのスキを見事に突いた。
 第3ピリオド12分を過ぎたところで、HLアニャンがアタッキングゾーンでパスを回す中、タイミング良くパスを奪い取った大澤勇斗がゴールへ向けて突進。それに合わせて鈴木ロイもゴール前へ。この2人の突進にHLアニャンのDFはマークに付かざるを得なかったところ、少し遅れてアレックス・ラウターがゴール左スロットの絶妙な位置に進入。ノーマークを作ったラウターの動きを大澤は見逃さなかった。
「相手がパスをサイクル(※数人の選手で細かいパスを円を描くように繋ぐプレー)してくるのは予測していました。サイクルするのが分かっていたので、カバーのシチュエーションで向こうが焦ってドロップミスしたパックをうまく奪うことができた。そこを抜け出してゴールに向かったときに2対1のシチュエーションを作れるかな、と思ったらアレックス(・ラウター)も来ているのが見えていたのでなるべく(鈴木)ロイの方にドライブしていって、ロイにパスを出す雰囲気を作っていきながら溜めて、一番良い形でアレックスにパスを送ることができました。ロイがハードワークしてくれて最後は良いシュートを持っているラウターに渡す、という僕らのラインでやりたい形、練習から取り組んでいるプレーを実現できました」(大澤)

 大澤のパスを受けたラウターは身体を投げ出しながら豪快にシュート。放たれたパックはGKマット・ダルトンの右サイドを見事に撃ち抜きこれで勝ち越し。その後はこの日先発のGK古川駿がアニャンの猛攻を弾き返しグリッツは3-2で見事に逃げ切り勝利。37本のシュートを2点で抑えた古川も前日の冨田と同様に開口一番で味方の守りを絶賛した。
「久々の先発で緊張はありましたが、味方のプレーヤーが相手にプレッシャーを早く掛けて、軽いプレーをしないでしっかりパックを繋いでくれたので怖い場面が少なかった。ディフェンシブゾーンの内側に身体を入れて守ってくれて、危ないリバウンドも身体を張ってクリアしてくれるなどGKとしてはとても守りやすく、この動きなら勝てる、と試合途中で感じていました。とにかく味方に感謝の試合でした。選手みんながやるべきことやり、それがラウターの得点に繋がった。『やるべきことをやっていればウチは強い』と確信できた試合でした」(古川)

 この2連勝、さらには古巣レッドイーグルス戦から合わせて3連勝できた理由について、大澤は試合後に落ち着いた口調で答えてくれた。
「勝っていることもありますが、シーズンスタートからここまでのチームでの取り組みが形となり自信となっている部分は確かに感じます。この2連戦、4つのラインが上手く回っている感じが僕自身も手応えとしてあって、特にGKとDFの頑張りがすごかった。良い守りができているので、追いつかれた時にも僕個人的には焦りはなかったですし、チームとしても『ここから動こう』という雰囲気で共通理解ができていました。まだまだ課題も多いことは確かですが、グリッツが勝てる試合がこうやって増えてきたのは成長している証明だと思います。良い雰囲気でもあるし自信には繋がっているが、みんな油断している感じはない。やるべきプレーを実行したからこそこういう結果が付いてきている、というのはみんなが分かっているので、気を引き締めてこのままカップ戦と全日本選手権に繋げていきたいですね」(大澤)

チーム内競争が生み出す「進化」を見せて初のタイトル奪取へ

 過去の記事でもお伝えしたとおり、今季の横浜グリッツはシーズン前から陸トレの量を増やし、シーズンを通して戦える身体作りに取り組んでいる。週3回行われる8時からの氷上練習の前に、朝7時に集合して近くの公園で陸上トレーニング。各選手仕事を抱えながらも朝7時に集まるモチベーションのたまものだが、積み上げたその陸トレの成果がここに来て現れていることは確かだ。浅沼芳征監督は練習生からいまやDFの一角を占めるまでに成長した在家秀虎を例に選手たちの努力を称える。
「在家が6人目のDFとして機能してくれているのは大きい。彼が自主トレを重ねて戦える身体を作ってくれ、当たり負けしないトップリーガーとしての基本的な身体の強さができてきた。たしかに技術ではトップ選手に劣るかも知れないが、戦うための武器は何かを選手たちが自分で考えて磨いてくれているのは本当に嬉しいこと。(ケガで欠場中の)畑山隆貴もそうだが、ラッキーではなく実力でチームのラインナップに上がって来た意地を見せてくれている」(浅沼監督)
 
 グリッツの選手はいま、試合に出るためにはチーム内でのポジション争いでまずはライバルに勝たなければならない。そういった選手層の厚みも躍進を下支えしている1つの要因だろう。岩本ヘッドコーチは「今シーズンも最初の方ではチームとしては良い形ができていたんですけれども勝ちきれなかったり、ちょっとしたホッケーIQが足りなくてミスから失点に繋がったり、といった形があったのは確かです。そういったミスを重ねて勉強したことで今はミスも減ってきたのかなと思っています」とチームの成長を認めた上で、こう言葉を繋げた。
「各選手がホッケーについて深く考え、ホッケーIQを上げていくことが大事なんです。日本全体としてそれが足りない。上手な選手を集めて強いチームを作る、というのが日本のこれまでのチーム作りのパターンというかよくある手法ですが、ウチは別のアプローチでチームを強くしないといけない。代表でもそうでしたが、僕はずっと弱いチームにいたので『どうすれば強いチームに勝てるのか』という考えでコーチをやってきて、(前日本代表監督の)ペリー・パーンさんの経験や色んな知恵もそこに入ってきているので、それらの知識も生かしながら、より強い横浜グリッツを作り上げて行ければと思っています」(岩本HC)

この2連戦は冠試合「Salesforce DAY」。濱島尚人は「5年目で初めて冠試合で会社の方々に勝利をお届けできました」と感懐もひとしお

いまのチーム状態なら間違いなく優勝を狙える。みんなそう思っています」(冨田)

 この2連戦でアジアリーグアイスホッケーのレギュラーシーズンは各チームちょうど半分の16試合を終え、12月はカップ戦のシーズンに突入する。日本の4チームが6試合ずつ戦うジャパンカップ。そして、ビッグタイトルである短期決戦トーナメント、全日本選手権だ。レッドイーグルス戦から合わせれば強豪相手に3連勝を果たした横浜グリッツ。カップ戦のタイトルを奪うべく選手たちの士気はますます高まっている。
「今はみんな練習からポジティブです。シーズン序盤は失点をするとその後焦ってパックを見合ってしまうといったシーンもあったんですけれども、今は失点してもそこで落ち着いてグリッツのホッケーが出来ているのが大きいと思いますし、このまま連勝を続けていきたいです。僕自身も、全日本選手権の優勝を目指しています。一発勝負のトーナメントでは何が起こるかは分からないですし、いまのチーム状態なら間違いなく優勝を狙える。みんながそう思っているので、頂点を目指して頑張ります」(冨田)

 横浜グリッツの次戦は11/30(土)、12/1(日)にホーム・KOSÉ新横浜スケートセンターで行われるジャパンカップ、対レッドイーグルス北海道の2連戦。まずはカップ戦で初のタイトル奪取へ。強豪レッドイーグルスから新横浜での勝利をファンに披露したい、と選手たちの心はますます燃えている。

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