バックスGK井上が通算300試合出場、現役2人目の快挙「ダスティは超えてみたいですね」

「気がつけば…」の言葉は偽らざる本音だろう。努力を続ける才能、が井上(写真中央)をこの境地に導いた

12/12アジアリーグジャパンカップ
栃木日光アイスバックス 6(3-0、3-0、0-1)1
横浜グリッツ

取材・文・写真/今井豊蔵

栃木日光アイスバックスのGK井上光明が12/12に日光霧降アイスアリーナで行われた横浜グリッツとのジャパンカップ後期2回戦に先発出場し、トップリーグ通算300試合出場を達成した。
初出場はチャイナドラゴンに在籍した2009年9月24日の王子イーグルス1回戦(中国・ハルビン)。
現役では東北フリーブレイズのGK橋本三千雄に続く2人目となる大記録だ。

■横浜グリッツとの後期2回戦に先発、28セーブ1失点で勝利

井上はこの試合が今季5試合目の出場。グリッツ相手に28セーブ1失点でチームを勝利に導き、試合後のヒーローインタビューにも呼ばれた。「気が付けば300試合出ていました。ありがとうございます」という言葉に、謙虚な人柄がうかがえる。

両チーム合わせて27個の反則が記録される大乱戦となり、レフェリーとペナルティの確認などで間延びする場面が目についた。GKにとっては集中が難しい状況だ。
ただ試合後の井上は「ちょっとお客さんを待たせる時間が多くなってしまいました。アイスホッケーには格闘技のような要素もありますけど、極限のスピードの中で技術を見せる競技です。面白いと思っていただけたら、これに懲りずまた来てください」とまずスタンドのファンを気遣った。
日本連盟のアスリート委員会にも所属するなど、競技の未来を真剣に考える男ならではの振る舞いだった。

■波瀾万丈のチーム所属歴も糧に。いまも成長を続けている

トップリーグでの通算300試合出場は現役2位。

そんな簡単な言葉では言い表せないほどの波乱万丈を経て来た。法大卒業時には西武プリンスラビッツ入りが内定していたものの、ちょうどそのタイミングで廃部に。2009-10シーズン、アジアリーグに中国から参戦していたチャイナドラゴンでプロ生活をスタートした。10-11から4季所属した韓国のハイワンでは、積極的に韓国語を学び、選手の中に飛び込んだ。主戦GKの地位をつかみ、ハルラを破っての韓国総合選手権優勝を果たしてもいる。

実業団チームに入るはずが、プロとして歩んではや13年目。少しずつ、前に進むことしか頭になかった。
「中国にいた時は、1試合1試合これが最後になるかもしれないと思って出ていました。韓国にいた時も『何試合出たい』かなんて、考えたこともなかったです」というのは、正直な思いだろう。

2014-15からの5シーズンは日本製紙クレインズに所属した。
GK石川央の控えから信頼を掴み、出番を増やしていったが、2018-19シーズンにGKドリュー・マッキンタイアが加入すると運命は一変。控えに追いやられ、わずか1試合出場に終わった。さらにシーズン後にはまた、チームが廃部となった。

アイスバックスに移籍して3シーズン目、気づけばベテランと呼ばれておかしくない35歳になった。GKにサイズが求められる時代、身長172センチと決して大柄ではない体格でここまで現役を続けてこられた原動力を問うと、即答だった。

「子どものころからこの舞台に憧れてきました、トップリーグで氷に乗りたいというのが全てですよ。ベンチに座っていてはつまらない」

 井上が背負う背番号70は、幼き日に憧れた西武鉄道のGKダスティ芋生が由来だ。
その芋生は日本リーグで260試合、さらに王子製紙に移籍してアジアリーグ74試合に出場している。トップリーグ通算334試合出場は、もう井上の手の届くところにある。

「ダスティは越えてみたいですね。あと34試合か…」と口にする一方で「やることは変わらないと思っています。299試合も、301試合も一緒。いつも試合に出られる準備をするだけです」と表情を切り替える。

変わらない準備と日常の先に、さらなる進化がある。若々しさを失わない井上のゴールは、まだまだ先になりそうだ。

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